24 たったひとつの
俺の部屋に遊びにきた
「これ、完成したボドゲで──俺の初めての作品だから、瑠々ちゃんにもらってほしくて」
瑠々ちゃんは瞬きをして、俺の手の缶と俺の顔とを見比べる。こういうときの瑠々ちゃんの表情はなんだかちょっと猫みたいで、それは高校の頃から変わってない。可愛いな、と思う。
「わたしが、もらっても良いの?」
瑠々ちゃんの上目遣いに、はっきりと力強く頷きを返す。
「瑠々ちゃんのために作ったんだ。だから、受け取ってほしい」
「あの……ありがとう」
ようやく俺の手から缶を受け取った瑠々ちゃんは、ちらと俺を見て「開けても良い?」と聞いてきた。「もちろん」と返す。
「わ、果物の駒だ、可愛い!」
缶を開けて、中の巾着袋を開いた瑠々ちゃんは、すぐにはしゃいだ声をあげた。中から赤い林檎の駒を取り出して、嬉しそうに眺める。その声に、表情に、俺は木駒を買って良かったと思った。
「すごい! 駒があると本当に売ってるボードゲームみたいだね」
「カードは思いっきり手作りだけどね」
「でもすごいよ。たくさん作って売ったりするの?」
瑠々ちゃんの言葉に、俺は少し考える。それはまあ、いずれは自分が作ったボドゲを売ったりとか、憧れはあるけれど。
「今回はとりあえず、瑠々ちゃんの分だけ作れたら良いと思ってたから。量産できる作りにはなってないし。俺もその辺りのことはまだ全然調べられてないし。けど、いつかは挑戦したいなって思ってるよ、売るのも」
俺の言葉に、瑠々ちゃんは自分の手の中の林檎を見つめた。
「えっと……じゃあ、このゲームはこれしかないってこと?」
「そう。瑠々ちゃんが持ってるこれひとつだけ」
瑠々ちゃんは持っていたりんごの駒を握りしめて、神妙な顔で頷いた。
「ありがとう。大事にする」
「喜んでもらえて、良かった」
そして二人で笑い合う、それも幸せだった。
「それで、さっそくだけど、遊んでも良い?」
「もちろん」
それでさっそく二人で遊ぶ。テーブルの上にカードと木駒を広げて。やっぱり瑠々ちゃんの体質は反応しなくて、ボドゲの中に入り込むことはなかった。
本当は、こうやってパッケージングしたら体質が反応してくれるんじゃないかって淡く期待もしていたのだけれど。
それでも、瑠々ちゃんが楽しそうにカードを並べて、木駒を積んで、ゲーム展開に悩んだり考え込んだり笑ったりしていたから、きっと大丈夫なんだと思うことにした。
ワンゲーム終わって点数計算もそこそこに、俺は瑠々ちゃんの隣に近づいた。俺の下心に、瑠々ちゃんは唇を尖らせた。
「ゲーム中は駄目。ちゃんとゲームを終わらせなくちゃ」
怒られたので、大人しく点数計算をする。結果は俺の勝ち。瑠々ちゃんの手を握る。瑠々ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せてから、俺を睨みあげた。
「挨拶!」
「ありがとうございました」
食い気味の俺の挨拶に、瑠々ちゃんが思わずといったように笑った。
「ありがとうございました。ちゃんと片付けてからね」
「あとで片付けるから」
「駄目。角くんのゲームだし、大事にしたいから」
そう言われたら仕方ない。瑠々ちゃんの手を離して、二人で片付ける。カードを集めて束ねる。木駒を集めて巾着袋に入れる。
木駒を集めながらそっと隣を見たら、瑠々ちゃんは「今は片付け中」と俺を睨みあげた。それも、幸せだった。
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