21 ふたりの試行錯誤(後)

 注文カードを指差して、思いつきを口にする。


「例えば、注文カードを二つのグループに分けるんだ。Aのグループは点数が低めの注文、Bのグループは逆に点数が高めの注文が多くなるようにする。それで、ゲームの前半はAから、後半はBから使うようにしたら、後半に点数が高めの注文が出やすくなって逆転要素が生まれるんじゃないかな」


 俺の説明に、瑠々るるちゃんは最初ぽかんとした顔をして、それから笑顔になった。


かどくんてすごいね。ルールのアイデアがどんどん出てくる」


 思いがけない褒め方をされて、俺は少しにやけてしまった。嬉しくなって、それでもあまり調子に乗りすぎたくもなくて、テーブルの上で視線をうろうろさせる。

 俺が何も言えないでいる間に、瑠々ちゃんは言葉を続けた。


「わたしが何を言ってもちゃんと聞いてくれるし、それがルールになるし。すごいよ」

「いや、でも、俺なんか……瑠々ちゃんに意見を聞いて、ようやく思いついたくらいだし。瑠々ちゃんがいてくれたからだよ」

「役に立ててるなら嬉しい。こうやってゲーム作るのも楽しいし」


 瑠々ちゃんはふと、真剣な表情になる。そのまま身を乗り出して、俺の顔を覗き込んでくる。


「角くんは? 角くんはちゃんと楽しい? わたしの体質が反応しなくても、ちゃんと楽しい?」


 瑠々ちゃんの、その瞳。

 体質が反応しないのは瑠々ちゃんのせいじゃない。そう伝えたつもりだったけど、きっと瑠々ちゃんの不安に対してはまだ全然足りなかったんだ。俺が思うよりもずっと、瑠々ちゃんは自分の体質のことを気にしていたんだ、きっと。

 でも瑠々ちゃんは、そんな不安の中、俺と一緒にボドゲ作りをしてくれた。そして、今は俺が楽しいのかと問いかけてくれている。

 瑠々ちゃんはやっぱりかっこいい。勇気があって、大胆な選択だってできる。そしてやっぱりめちゃくちゃ可愛い。

 それに比べて俺は、なんて情けないんだろう。瑠々ちゃんを楽しませるために、なんて言いながら、肝心の瑠々ちゃんの気持ちを置いてきぼりにしてボドゲを作ることしか考えてなかった。本当に、俺で良いんだろうか、とすら思う。

 それでも、俺は覚悟を決めて真っ直ぐに瑠々ちゃんを見る。


「楽しいよ。めちゃくちゃ楽しい。体質なんか関係なく、楽しいよ」

「……なら、良いんだけど」


 ほっとしたような、それでもまだ不安を残す声だった。それで今すぐ抱きしめたくなった。抱きしめて、瑠々ちゃんの不安を全部取り除きたかった。急いで瑠々ちゃんの隣に移動する。

 俺がわざわざ隣に移動するのは、つまりそういうことだって瑠々ちゃんにも伝わったのだと思う。瑠々ちゃんは、ちょっと困ったような照れてるような顔をして俺を見上げると、両手を広げてくれた。

 そんな瑠々ちゃんを抱きしめる。小柄な体が腕の中に収まる。彼女の手が俺の背中にまわる。俺の服をぎゅっと掴むのが、愛しい。


「体質なんか、本当にもうどうでも良いんだ。体質なんかなくったって、瑠々ちゃんに楽しんでもらいたいんだ。瑠々ちゃんが良いんだ」

「うん、ありがとう」


 気持ちを伝えるようにキスをする。唇が離れた後に、瑠々ちゃんが俺の目を見て微笑んだ。

 瑠々ちゃんの中の不安はなくなっただろうか、まだ足りないだろうか。俺は瑠々ちゃんの不安がなくなるまでずっと、こうしてたって良い。そんな気持ちでまた瑠々ちゃんを抱きしめた。




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