18 ひとりじゃできない
テーブルの上に並べたのは、手作りのケーキ台カード、注文カード、それから果物トークン。
この前までと変わってしまった
「鳥を集めるゲームは、やめちゃったの?」
「いろいろ考えてたらね。ケーキを作って売るゲームになったんだ」
「そういうものなの?」
不思議そうにしている瑠々ちゃんに苦笑を返す。
「自分でも不思議なんだけど、思いついちゃったから。瑠々ちゃんは、ケーキを作って売るのはどう思う? ケーキ屋さんのゲーム」
「それはまあ、ケーキは好きだし、可愛い題材だなって思うけど」
「なら良かった」
俺は笑って、ケーキ台カードをシャッフルする。それを山札にしたら、今度は注文カード。二つの山札を作って、果物トークンを脇にまとめて、改めて瑠々ちゃんに向き直る。瑠々ちゃんは俺の表情を見て瞬きをしたけど、何も言わずに俺の言葉を待ってくれた。
「瑠々ちゃん、俺は瑠々ちゃんが安心して楽しめるボドゲを作りたいんだ」
「えっと……うん、ありがとう」
瑠々ちゃんが少し頬を染めて目を伏せる。俺は一回深呼吸を挟んでから、言葉を続けた。
「だけど、気づいたことがあるんだ。瑠々ちゃんが楽しめるボドゲを作るには、瑠々ちゃんが必要だ。俺ひとりじゃ、俺は瑠々ちゃんが楽しめるボドゲを作れない、瑠々ちゃんがいないと」
瑠々ちゃんは目をみはって顔をあげた。その視線を真っ直ぐに見返す。
「だから、瑠々ちゃん、俺と一緒にボドゲを作ってほしい。やって、くれますか?」
瑠々ちゃんの唇がほころぶ。嬉しそうに目を細める。そして瑠々ちゃんは、大きく頷いた。
「うん、はい。角くんと一緒に、ボードゲームを作りたい、です」
なんだか、好きだと言い合ったあとみたいに、胸の奥が熱かった。二人で見つめあって、笑い合う。キスしたときみたいに、抱き合ったときみたいに、幸せだった。
「最初から、こうすれば良かったんだ。なんだか、振り回しちゃってごめん」
自嘲めいた俺の言葉に、瑠々ちゃんはびっくりしたような、そしてなんだか泣きそうな顔になって首を振った。髪の毛がふわりと広がる。どうしたのかと顔を覗き込む。
「そんなふうには思ってないよ。わたしの方が、その……体質が、反応しなくてごめんね」
瑠々ちゃんの体質が反応しないのは、瑠々ちゃんのせいじゃない、俺のが作ったゲームの問題。俺はそう思っていたけど、でも瑠々ちゃんは苦しかったのだと、俺はそこではじめて気づいた。情けないことに。
抱き締めたい。でも、テーブルが邪魔だ。距離を埋めるように身を乗り出して両手で瑠々ちゃんの頬を包む。瑠々ちゃんがびっくりした顔で俺を見る。
「瑠々ちゃんは悪くない! それに、体質が反応しないから、こうやって一緒に作れるんだ! だから、大丈夫!」
そう、大丈夫。ボドゲの中に入り込まなくても、楽しむことはできる。瑠々ちゃんを楽しませることはできる。少なくとも、そこに向かって前進している。俺はそう感じていた。
そういうことを伝えるのに、どう考えても俺は言葉足らずだったと思う。それでも瑠々ちゃんは、俺の手に自分の手を添えて、ふわっと笑ってくれた。
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