16 楽しいですか?

 いか・・さんと話す覚悟ができた。

 俺はボドゲを作りたい。瑠々るるちゃんを楽しませるボドゲを、だ。そのためにはなりふり構っていられない。できることはなんでもしたい。


 ──作ってるボドゲの相談なんですけど


 思い切って送ったメッセージ。返事がきたのはほとんど夜寝る前だった。


 ──どうしました? ルール読みましょうか?


 気軽にそう言ってくれるのが嬉しくて、俺は怯まずに次のメッセージを送った。


 ──実は るるちゃんの体質が反応しなくて 入り込まないんです 俺が作ったボドゲだと

 ──ああ


 短い返信の後、少し間があってから、さらに言葉が届く。


 ──るるから聞きました。それでも楽しく遊べたんですよね。


 なんだ、いかさんは知ってたのか。体から力が抜ける。ひとりで知られたくないと意地を張っていたのが馬鹿みたいで、苦笑してしまった。


 ──一応は まだ問題だらけですけど

 ──るるの体質が反応しないのがなんでかは正直俺もわからないですけど、それでも二人で楽しく遊べたのなら、それが一番だと思いますよ。


 これはきっと慰めの言葉だ。いかさんの優しさを感じる。もしかしたらいかさんは、俺がだいぶ落ち込んでいたことも瑠々ちゃん経由で知っているのかもしれない。

 だとしたら、瑠々ちゃんにもだいぶ心配をかけていたってことだ。自分の態度を反省しないと。


 ──もっと良くするつもりです それでテーマを変えようと思いついて

 ──カドさんってテーマ先行で作ってるんですか? 先にメカニクス作ってテーマは後付けの方が作りやすそうですけど。

 ──新しいテーマもここまでのゲームのルールに乗せた感じはあるんで先行ってほどじゃないです でも


 いかさんへの返信を入力しながら、自分の正直な気持ちに気づいた。それをそのまま、できるだけ素直に言葉にする。


 ──俺がボドゲを作りたいのはるるちゃんに遊んでほしいからで るるちゃんはきっとテーマがある方が楽しめると思うから 俺はテーマもちゃんと考えたいんです


 それから届いたメッセージは、一見脈絡のないこんな質問だった。


 ──カドさん、ボドゲ作るの楽しいですか?


 何度か瞬きをしてから、俺は返事を入力する。


 ──はい 楽しいです

 ──なら良かった。頑張ってください。俺も楽しみにしてますから。

 ──はい ありがとうございます


「楽しい、か」


 本当はもっと具体的な相談だってするつもりだった。例えば終了条件についてとか。しても良かったのに、と自分でも思う。

 でもなんだか、そんな相談しなくても、もうじゅうぶんなだけの言葉をもらった気がした。




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