12 不安との対峙

 俺の部屋で、瑠々るるちゃんはいつものようにクッションに座っている。テーブルを挟んで、俺は緊張の中、手作りのカードやトークンを広げる。

 木のイラストが描かれたカード、ころんとした果物のトークン、可愛い鳥のトークン。それを見て、瑠々ちゃんの顔に笑みが浮かんだ。


「わ、可愛い」


 反応にほっとして、俺もつられて微笑んだ。


「良かった。こっちの方が雰囲気が出るかなって、作ったんだ」

「うん、イメージしやすいし、可愛いよ」


 身を乗り出して果物トークンを見ていた瑠々ちゃんは、そう言って俺を見上げた。けれど、体質が反応してボドゲに入り込むようなことはない。


(いや、まだわからない)


 俺は不安を押し殺して、喋る。


「こないだもちょっと言ったけど、鳥を集めるゲームなんだ。最後に鳥トークンをたくさん持っていた方が勝ち」

「鳥トークンてこれだよね。うん、わかった」


 トークンがそのものの形をしていると、説明が楽だということにも気づいた。頑張ってトークンを切り抜いて良かった、と思う。


「で、鳥を集めるために、まずは木を植える。木には果物が実って、木が果物でいっぱいになると鳥がやってくる。そういうゲーム」

「木を植えて、果物が実って、鳥がやってくる。うん、大丈夫」


 ここまで話しても、やっぱりボドゲに入り込む様子はない。前はここで諦めてしまった。でも、今日は諦めないって決めた。

 瑠々ちゃんの体質がなくても、ボドゲに入り込まなくても、瑠々ちゃんに楽しんでもらうことはできるかもしれない。そう覚悟を決めて、俺はルール説明インストをする。


「自分の手番になったら、表向きになっている木カードから一枚選んで、自分の前に表向きに置く。これが、木を植える」


 説明のために、俺は大きさが3の木カードを手にして自分の前に置いた。瑠々ちゃんの視線が俺の指先を追いかけてくる。


「で、木を植えたら今度は果物が実る。果物には、普通の果物とこの大きい果物の二種類ある。普通の果物を実らせるときは、自分の前にある木カード一枚に一つずつ、果物トークンを置いていく」

「一枚に一つってことは、何枚かあったら全部に置けるってこと?」

「そう。三枚並んでいれば、全部で三つ。で、大きい果物を選んだときは、大きい果物を一つだけとって、自分の前の木のどれか一つを選んで置く」

「大きい果物は一つしかおけないの?」

「そうだよ。それで、果物が実って、木カードの大きさの数と同じになったら、鳥が集まってくる。このカードの大きさは3だから、このカードなら果物トークンが三つだね」


 喋りながら、俺は果物トークンを三つ、木カードに乗っける。


「集まる鳥は、果物の数で決まる。果物トークンが一つか二つなら一羽、三つか四つなら二羽、五つなら三羽。さらに、大きい果物があればその数だけ鳥トークンが増える」

「ええっと……例えば、この木だったら果物トークンが三つだよね。それなら二羽の鳥がきて、もしこのうちの一つが大きい果物だったら、合計で三羽の鳥がくる?」

「そう、ばっちり」


 説明を一通り終えて、それでもまだ瑠々ちゃんの体質は反応しなかった。自分の作ったものがゲームになってないんじゃないかっていう不安、それから瑠々ちゃんにがっかりされる恐怖。

 そんな気持ちと戦いながら、俺はそっと瑠々ちゃんを見た。


「ていうゲームなんだけど、どう……かな」


 瑠々ちゃんは緊張してるような、何か覚悟したような、真面目な顔をしていた。その表情で、俺を真っ直ぐに見る。


「うん、遊んでみたい、遊んでみよう」


 やっぱり、ボドゲの中に入り込む様子はない。俺も覚悟を決めて、瑠々ちゃんを見て頷いた。




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