10 楽しんでもらいたい
汗ばんだ小柄な体をきつく抱きしめる。お互いの汗がじっとりとして、熱い肌が触れ合う。
「
余韻の残る甘い声が、俺の耳元をくすぐる。苦しいと言いながら、その手は俺の背中に回された。
瑠々ちゃんは普段は俺のことを
元々自分の八降という名前はそんなに好きじゃない。でも、瑠々ちゃんに呼ばれるのは好きだ。
俺は腕の力を緩めて、瑠々ちゃんの顔を覗き込む。白い頬に乱れかかる髪をそっとかきあげて、どうしようもなく気持ちが溢れてまなじりに、頬に、キスをする。瑠々ちゃんはくすぐったそうに笑って首をすくめた。
そんな様子を可愛いなと思って、幸せを感じる。俺が今感じてるのと同じくらい、なんならもっといっぱいの幸せを、瑠々ちゃんが感じていてくれたら良いのにって思う。
瑠々ちゃんは隙間を埋めるように、俺の鎖骨に唇をつけた。じゃれ合うように足が絡み合う。
秘密を打ち明けあった後のようにくすくすと笑って、お互いの体を抱き止めあって、お互いの体温を感じる。たゆたうように、しばらくの間そんな幸せを感じていた。
やがて瑠々ちゃんが体を離して、俺を見た。
「あのね」
俺と視線が合うと、瑠々ちゃんの瞳は何か不安があるかのように揺れた。何を言われるのかと、俺は息を止めて顔を覗き込んで、待つ。
やがて決心したように、瑠々ちゃんは真っ直ぐに俺を見た。
「わたし、八降くんがボードゲーム作るの、何か手伝えないかな。その……何もできないかもしれないけど」
それは思いがけない言葉で、俺は何も言えずに瑠々ちゃんの決意したような顔を見ていた。
「八降くんが頑張ってるのは知ってる。それで、わたしも何かできないかなって、ずっと考えてて」
俺のそれは考えてのことじゃなかった。気づいたら腕が、瑠々ちゃんの頭を、体を引き寄せていた。そのまま抱きしめる。
この可愛くて勇気のある女の子は、いつもいつも何度だって不安になった俺の手を引いてくれる。そしてその先に一緒に行こうって言ってくれる。
そんな彼女を抱きしめて、どうしようもないくらいに幸せにしたかった。笑って欲しかった。
そうだった。
俺がボドゲを作りたいのは、瑠々ちゃんに楽しんでもらうためだった。だったら何よりも、瑠々ちゃんに楽しんでもらわなくちゃいけない。そんな当たり前のことに今更気づいて、思考が動き出す。
「ありがとう、すごく嬉しい。瑠々ちゃんが楽しめるように頑張るから」
瑠々ちゃんが俺の腕の中で、俺の胸を叩いて見上げてくる。
「それは嬉しいんだけど、そうじゃなくて! 相談してほしいって思ってるの! そりゃあ、わたしじゃ役に立たないかもしれないけど」
「そんなことない! 瑠々ちゃんがいてくれて嬉しい! 相談もするから!」
それで瑠々ちゃんが笑ってくれるなら、いくらでもそうする。瑠々ちゃんが楽しんでくれたら、それはもう勝利点確定で俺の勝ちなんだから。
瑠々ちゃんは俺の腕の中で唇を尖らせてから、呆れたように笑ってくれた。
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