9 駄目ですか

 瑠々るるちゃんが俺の部屋に来るのももう何度目か。数えきれないくらいだけど。こないだ作ったボドゲを披露し損ねてからははじめてで、正直なところ俺は少し緊張していた。


「お邪魔します」


 いつものように遠慮がちにクッションに座る瑠々ちゃんは、赤いカーディガンを羽織って、ブラウンのスカート。カーディガンの赤みが白い頬に映って可愛いと思った。

 今日は先にお菓子とお茶を出してしまう。一口サイズのチョコレートタルト。アクセントにナッツを乗せている。瑠々ちゃんは「美味しそう」と笑った。

 お茶を飲んで一息ついてからボドゲ棚に向き合うと、瑠々ちゃんは首を傾けた。


かどくんが作ったボードゲームを遊ぶんじゃないの?」


 瑠々ちゃんのちょっと強張った声に内心ぎくりとしたけれど、それを表情に見せないようにして、俺は振り向いた。


「それはまだ……もうちょっと、時間がかかりそう」


 俺の言葉に、瑠々ちゃんは何度か瞬きをして、それから何か言いたそうに視線をあちこちに動かして、でももう一度俺を見たときに出てきたのは一言だけだった。


「そっか」


 そんなちょっとした引っ掛かりに気づかない振りをして、俺は二人で遊ぶためのボドゲを選ぶ。瑠々ちゃんもそれ以上は何も言わなかった。

 ボドゲ棚の布をめくって取り出したのは『タッジーマッジー』という花を贈り合うゲーム。いつもみたいにボドゲの世界に入り込む。ゲームの中ではお互いに本物の花を相手に差し出す。花に込められた意味にいちいち頬を染める瑠々ちゃんが可愛い。

 そうして何戦か遊んで、ちょっとぼんやりとしたまま現実で視線を交わす。二人で「ありがとうございました」と言って笑い合う。

 ゲームが終わった後の高揚感で、頭がのぼせているみたいな、そんな気分になっていた。

 二人の間にあるテーブルが邪魔で、もっと近づきたくて、テーブルを避けて瑠々ちゃんの隣まで移動する。瑠々ちゃんは頬を染めて俺を見上げた。


「あの、角くん……」


 ためらいがちな瑠々ちゃんの声に、そっと顔を寄せる。


「駄目、ですか」


 俺の声に、瑠々ちゃんはうさぎか何かのようにびくりと肩をすくませた。そして、目を伏せる。頬の赤みが一段と増して見えた。


「駄目……じゃ、ない、です」


 消え入りそうな声を飲み込むように、キスをする。ん、と掠れるような声が聞こえて、身体中が熱くなる。

 瑠々ちゃんの唇は、口紅なのかリップクリームなのか、そんな味がした。その味に、なぜだか瑠々ちゃんとの距離を感じてしまう。

 それで、もっと、もっとくっつきたいと、何度もせがむ。何度キスしても、満たされない。もっと、もっと受け入れてほしい。見せてほしい。全部が欲しい。




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