8 いかさんからのメッセージ

 いか・・さんからメッセージが届いたのは、その翌日。


 ──ボドゲ作ってるって聞きましたよ。


 瑠々るるちゃんが話したんだろう、と想像はできた。瑠々ちゃんはお兄さんであるいかさんに対して冷たい態度を取りがちだけど、なんだかんだと頼ってる様子もあるし、世間話くらいはする仲らしい。

 なんて応えようかと、指がスマホの画面の上をさまよう。

 うまくいってないんです。そう言って相談してしまおうか。そんなことも考えたけど、忙しそうないかさんに頼るのは、というためらいが邪魔をする。

 いや、本当はそんなことじゃなくて、単に自分がうまくいってないことを認めたくないという、それだけのことかもしれない。

 あるいは自分が考えたルールをいかさんに見せて、こんなものかと失望されるのが、怖いのかもしれない。

 散々悩んだ挙句、俺は逃げるような言葉を入力する。


 ──まだ途中なんですけど

 ──そうなんだ。できたら遊ばせてくださいよ。どんなゲームなんです?


 いかさんが踏み込んでくる。

 きっといかさんは、俺が相談したら聞いてくれるだろう。一緒に考えてくれるだろう。アドバイスだってしてくれる。そういう人だ。

 でも、俺は今、それを拒んでいる。みっともない自分を見られたくなくて。


 ──二人用のものを考えていて るるちゃんと遊べるように 可愛い雰囲気の いかさんが楽しめるかはわからないですけど


 具体的なことは何も言わずに、無難な言葉だけを並べる。俺が逃げ腰なことに、いかさんは気づくだろうか。気づいているだろうか。


 ──俺だって楽しみにしてますよ。


 いかさんは、それ以上は踏み込んでこなかった。ほっとして、俺は返事を入力する。


 ──ありがとうございます 頑張ります

 ──何かあったら言ってください。相談乗りますから。


 相談、してしまおうか。いっそ、うまくいかないのだということを全部ぶちまけてしまいたい、という気持ちにもなった。けれど、その言葉を入力しようとすると、指先は止まる。

 ボドゲ作りはうまくいってないけど、こんな情けない俺だけど、作ったボドゲを遊んでもらって、それで「楽しかった」とか「面白い」とか言ってほしい。褒められたい。認めてもらいたい。うまくいってない姿は見られたくない。

 結局俺は、無難な返事だけを返す。


 ──ありがとうございます そのうち相談させてください


 いかさんの好意にうまく応えられない自分が嫌になる。大きく息を吐いたところで、いかさんからまたメッセージが届く。


 ──カドさんはボドゲ好きでしょ。だから自分で楽しいって思うもの作れば、きっと良いゲームになりますよ、きっと。


 それじゃあ、とスタンプが送られてくる。俺もありがとうとスタンプを返して、それからメッセージを見返す。


「楽しい、か」


 楽しいってなんだっけ。俺はボドゲの何を楽しいって思っていたんだっけ。不安と焦りばかりが気持ちの奥にわだかまる。

 ボドゲが好きとか、楽しいと思えるものとか、良いゲームになるとか、なんだか今の俺には重すぎる言葉だっていう気がした。




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