7 バナナとキャラメルアイスのワッフル(後)
お洒落なお店、中に入るまで少し待ったけど、無事にテーブルについてメニューを広げる。
楽しみ、と笑う瑠々ちゃんに、俺も自然と笑顔になる。
やがて届いたお皿には、ワッフルの上にアイスと、たっぷりのフルーツが乗せられていた。瑠々ちゃんははしゃいで、スマホで写真を撮る。
二人で食べ始めて、お互いの味をシェアして食べ比べたり、楽しく過ごしていた。まったりとしたバナナと、キャラメルアイスの香ばしさが美味しかった。瑠々ちゃんも甘酸っぱいベリーのソースを口にして、うっとりとした幸せそうな顔をしていた。
そうして八割くらい食べた頃、瑠々ちゃんがナイフとフォークを持っている手をふと止めて、俺を見た。
「そういえば、
その視線と声には、ちょっと伺うような、聞くのを遠慮するような、もっと言ってしまえば俺を心配するような雰囲気があった。
俺は咄嗟にお皿に目を落として、バナナを突き刺した。
「考えてはいるんだけど……まだちょっと、ここのところ、学校の方も忙しかったから」
ごにょごにょと言ったそれは言い訳だった。あれから自分が考えたルールをいろいろと見直してみたものの、満足いくものにはなっていなかった。その手がかりすら見えていなかった。
自分の言葉を封じるように、突き刺したバナナを口に放り込む。黙って咀嚼する。うつむいてしまったから、瑠々ちゃんがどんな表情をしたのかはわからない。
「そっか」
小さくそう聞こえた。それから瑠々ちゃんのナイフがワッフルを切り分けるのが見えた。もったりしたバナナを飲み込んで、さらに言い訳を重ねてしまう。
「でも、この前よりは良くなってる、と思うんだ。なかなか、その……時間が取れないだけで」
素直にうまくいってないって、言えたら良かったのかもしれない。でも、俺の中のちっぽけなプライドがそれを拒んだ。だから「時間がない」なんて見栄を張ってしまった。
こんなしょうもない誤魔化し、瑠々ちゃんは気づいてしまうかもしれない。そしたら、みっともないって、思われるかもしれない。
そのことは怖いけれど、でも、うまくいかないことを打ち明けるのはもっと怖かった。
瑠々ちゃんのフォークが、切り分けたワッフルを持ち上げる。クランベリーが乗っかったまま。つられて見上げると、瑠々ちゃんがそのワッフルをぱくりと口に入れた。
酸っぱかったのか、ちょっと眉を寄せる。どこか考え込むように、視線を斜めに向けて咀嚼する。飲み込んで、ほうっと息を吐く。不意に、その視線が俺を見た。
ワッフルを食べてうっとりするのとは違う、なんだか不安そうな表情だった。
「あのね、角くんのボードゲーム、楽しみにしてるから。できたら教えてね」
瑠々ちゃんは、もっと別に言いたいことがあるんじゃないかって、そんな気がした。なんだか歯切れ悪く、視線を動かしている。
踏み込んだ方が良いのだろうか、でも、言い出しにくいことかも。あるいはやっぱり俺を傷つけないように気を遣ってくれているのかも。そんなことを考えて、結局俺は無難な選択をした。なんとか笑って頷いて、表面的に言葉を返す。
「うん、頑張るよ。楽しく遊んでもらえるように、考えるから」
すぐに視線を落として、溶けかけのアイスをワッフルですくって口に運ぶ。キャラメル味のアイスは口の中ですぐに溶けて、喉に流れていった。砂糖が焦げた苦味を舌の上にわずかに残して。
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