6 バナナとキャラメルアイスのワッフル(前)

 その日は、瑠々るるちゃんも俺も授業後に予定がなくて、じゃあ会おうかって話になった。瑠々ちゃんよりも俺の方が先に授業が終わって、だから瑠々ちゃんの学校に迎えに行った。

 それにはちょっとした縄張り意識もある。

 つまり、大須だいす瑠々るるちゃんという可愛い女の子には、すでに俺という相手がいるんだぞ、という。自分で言うのは恥ずかしいけど、そういうことを瑠々ちゃんの学校の人たちにわかってもらうための行為、ということだ。

 こういうことがしたくなるなんて高校時代には考えてもなかったから、自分でも少し戸惑っている。でも不安なのだ。俺の知らないところで、瑠々ちゃんが誰か見知らぬ男にでも声をかけられてたら──なんて、心配しすぎだろうか。

 授業が終わった瑠々ちゃんが、学校での友達と一緒に歩いてくる。ベンチに座った俺に気づいて、友達に手を振ってから俺のところに足早にやってくる。

 俺はベンチから立ち上がると、瑠々ちゃんの友人たちから向けられた好奇心混じりの視線に、軽く頭を下げて応える。それからこちらに向かってくる瑠々ちゃんの、その俺に向けられた笑顔に視線を戻す。

 その幸せに小さく手を振って応える。


かどくん、ごめんね、待った?」

「少しね。でも大丈夫、俺の方が時間があっただけだし」


 俺が立ち上がると、瑠々ちゃんはふっくらとした唇で微笑んだ。

 大学生になって、瑠々ちゃんはうっすらと化粧をするようになった。淡い化粧は瑠々ちゃんを少し大人っぽくして、前より一層可愛く見せていた。

 本当に、俺の変な心配が杞憂だと良いんだけど、と思いながら手を差し出す。


「今日はどこ行く?」


 手を繋ぐなんていつもなのに、それでもまだ瑠々ちゃんには照れがあるらしい。俺の手と顔を上目遣いに何度か見比べてから、そっと手を持ち上げて俺の手に乗せた。

 一緒にいたい。繋がっていたい。そんな気持ちで俺のよりも小さな指を絡めとる。俺の手をきゅっと握り返してから、瑠々ちゃんは口を開いた。


「あのね、行ってみたいお店があって……少し混んでるかもしれないんだけど」

「なんのお店?」


 自然に、二人で歩き出す。瑠々ちゃんの歩幅に合わせて、気持ち、ゆっくりと。このペースももう慣れたものだ。


「ワッフル。アイスとかフルーツとか乗っててね。気になってるんだけど」


 はしゃいだ声で、瑠々ちゃんが俺を見上げてくる。俺は頷いた。


「じゃあ、そこに行こうか」

「やった」


 瑠々ちゃんが嬉しそうに笑う。その表情だけで、俺はもうお腹いっぱいな気分になる。

 歩きながら、瑠々ちゃんはベリーも美味しそうだけど、バナナとキャラメルも良さそう、なんて早速楽しそうに悩みはじめていた。

 指の先、手のひらから伝わる体温が、お互いの体温を吊り上げる。




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