5 ひとりの反省会(後)

 また落ち込んでしまうのを、自分でなんとか引き止めて顔を上げる。今は落ち込んでいる場合じゃない。考えないと。もっと、楽しくなるように。ちゃんと、ゲームとして遊べるように。

 ルールに赤いペンでチェックを入れていく。

 そうだな、例えば──どうして手札にしようと思ったんだろう。これだと最初に引いたカードが一と二だったらアクションも役に立たないし、どうしようもないじゃないか。だったら、手札はやめよう。代わりに、何枚か表向きに並べてその中から選ぶようにしよう。

 木カードをプレイするか、果物を増やすか選べるようにするのはどうだろうか。

 いや、それだと前半が木カードをプレイして後半が果物を増やすことになるだけだ。選択できるようでいて、実質選択肢になっていない。意味がない。

 最初に五の木カードをプレイできたら強いような気がする。別な手で追いつけるような対抗策があった方が良いんじゃないだろうか。何かこう相手の鳥を奪うような──でも、直接攻撃的なインタラクションはあまり入れたくない。もっと平和な雰囲気のゲームにしたい。

 溜息が出てしまった。

 たったこれだけの単純なゲームなのに、考えることは無限にある。俺がボドゲを作るなんて、無理だったのかもしれない、なんて気持ちにもなる。

 ふと、スマホを手に取って、メッセージアプリでいか・・さんの名前を見る。

 いかさん──瑠々るるちゃんのお兄さんとは、ボドゲ友達だ。だけど、今年就職したいかさんはなんだか忙しそうだった。

 ボドゲ会には来ているけれど、最近はボドゲの情報もあまり追えてない、新しいボドゲもあまり買えてない、と嘆いていた。メッセージのやり取りもしているけど、ここのところは返事も時間が空いてからだったりする。

 いかさんの就職活動が始まったとき、いかさんはきっとボドゲ関係の仕事を選ぶんじゃないかって俺は思っていた。でも、就職先はIT系企業だった。開発部にボドゲが趣味の人がいて、なんて言ってはいたけど。

 それでなんだか少し、いかさんがボドゲと距離を置いたような気がして、寂しい気持ちになったのだ。ずいぶん勝手なことだと自分でも思うのだけど。

 メッセージを送ろうか、相談しようかと思いながら、指を動かす。何文字か入力したものの、何をどう相談すれば良いのかは思いつかなかった。それに、仕事で忙しいときに、こんな、ボドゲ作りがうまくいかない話なんて、されても困るんじゃないだろうか。

 入力途中のメッセージを全部消して、スマホの画面を消す。スマホを伏せてテーブルに置く。

 そしてまた、ひとりで自分のルールと向き合った。




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