4 ひとりの反省会(前)

 クッキーはいつものように美味しいと言ってもらえた。そうしてお茶を飲んで一息ついて、気分も少し変わってから、二人用の『パッチワーク』というボドゲで遊んだ。

 その時は瑠々るるちゃんの体質はちゃんと反応して、二人でボドゲの中に入り込んだ。カラフルな糸、たくさんのボタン。カタログで選ぶと端切れ布が届いて、自分のキルトに縫い付ける。いつも通りの可愛らしい世界観の中で、俺たちはゲームを楽しんだ。

 つまり、瑠々ちゃんの体質はいつも通りってことだ。それなのに俺が作ったボドゲには、その体質は反応しなかった。それってやっぱり、何度考えてもそういうことなのだろうという結論に辿り着く。

 瑠々ちゃんが帰るのを送っていって、戻ってきて部屋にひとり。

 百均で買ったトランプを取り出して眺める。眺めながら、自分の何が足りなかったのかを考える。何もかもが足りないと切り捨てるのはただの逃げだ。俺はちゃんと向き合わないといけない。

 そうはわかっていても、俺はとても弱気になっていた。


「そんなに駄目だったかなあ」


 つい、そんな言葉がこぼれ落ちてしまうくらいには。

 そりゃあ、初めて作ったボドゲがいきなり傑作だなんて、そこまでは思ってはないけれど。でも、瑠々ちゃんと楽しく遊べるくらいにはなってるんじゃないかって、そのくらいには自惚れていたのだ。

 実際には遊ぶことすらできなかった。

 悔しい。悲しい。恥ずかしい。きつい。そのどれも少し違うようで、全部が当てはまっている。そんな気分だった。どこまでも、際限なく落ち込んでいきそうになる。

 そんな自分をなんとか引っ張り上げるために、俺は「よし」と声に出した。無理矢理気持ちを切り替える。


「考えよう。ちゃんとボドゲとして遊べるように」


 プリントアウトしたルールを見返す。こうやって見返すと単純なゲームだ。

 一枚の木カードを手札として持っている。手番になったら木カードを一枚引いて、二枚の手札になる。その手札から、どちらかのカードを目の前にプレイする。

 そうしたら、目の前にプレイされている木カード全部に果物トークンを一つずつ置く。ただし、木カードの数字より多くの果物は置けない。

 木カードがいっぱいになったら、鳥トークンを置ける。果物が一個か二個なら鳥トークンは一個。三個か四個なら鳥トークンは二個。五個なら鳥トークンは三個。

 それだけなら数の大きな木が有利だ。でも、一と二の木カードはアクションカードだ。プレイした時に特別なアクションが使える。

 そうやって、集めた鳥トークンの数を競うゲーム。

 いつものようにボドゲの中に入り込んだら、鳥トークンはきっと本物の鳥になる。そうしたらきっと瑠々ちゃんの木に鳥が集まって、そうして鳥に囲まれた瑠々ちゃんは可愛いだろうな、と想像して思い付いたゲームだった。

 鳥がいっぱい集まったら、瑠々ちゃんはきっと笑ってくれる。そんな光景を想像していた。結局プレイはできなかったけど。




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