3 インスト中断
インストを続けなくちゃ、と思った。俺が作ったボドゲを遊ぶために瑠々ちゃんは来てくれた。遊んでくれようとしている。たとえ瑠々ちゃんの体質が反応しなくても、インストを進めて遊ばなくちゃ。
その一方で、腹の奥から胸元にまで、ざわざわと恐怖が広がってゆく感覚があった。瑠々ちゃんがボドゲの世界に入り込まないってことは、俺が作ったこれはボドゲじゃない。ゲームとして成立していない。そんなものを披露して、果たして楽しく遊べるんだろうか。
ボドゲじゃない。そう思って考え直せば、俺が考えたルールはあまりに稚拙に思えた。単調で、駆け引きも少なく、面白みがない。バランスも悪い。
こんなはずじゃなかった。
瑠々ちゃんが好みそうなテーマ、瑠々ちゃんと遊べる二人用ボドゲ。それを披露して、それはまあ、初めてだから完璧にうまくいくなんて思ってなかったけど。それでも瑠々ちゃんには楽しんでもらえるって、そう思っていたのに。
その想像──空想──妄想かもしれない、それになんの根拠もなかったことに、今更気づいてしまった。
俺はもう、インストを続けることができない。
「ごめん。今更だけど、このゲーム遊べないや。問題があることに気づいちゃって……せっかく来てもらったのに、ごめん」
「え……?」
瑠々ちゃんはぽかんと口を開いて、何度も瞬きをして俺を見ている。その表情を真っ直ぐに見れなくて、俺はテーブルに目を落として、広げたものを片付け始めた。
「もうちょっと考えて、もっと面白くして、遊んでもらうのはそれからになりそう」
「えっと……」
広げたトランプを重ねる。おはじきもビーズもビニールの小袋に詰める。
困ったような顔の瑠々ちゃんは、おずおずといったふうに俺の顔を覗き込んできた。
「でも、せっかくだから、ルール説明だけでも聞かせて欲しいけど……駄目なの?」
瑠々ちゃんの視線には、困惑とか不安とか、あとは心配の色もあった。そんな表情をさせてしまったことが悔しくて、でもなんでもないかのように振る舞いたくて、できるだけ落ち着いて笑顔を作る。うまくできたかはわからない。
「ごめん。次はちゃんと遊んでもらえるものを作るから」
瑠々ちゃんは少しの間何か言いたそうにしていたけれど、結局それ以上は何も言わずに微笑んだ。
「わかった。じゃあ、次を楽しみにしてるね」
「うん、ありがとう。ごめん」
もう何度目か、俺の謝罪に瑠々ちゃんは小さく首を振った。やっぱりまだ何か言いたそうで、どこかちょっとぎこちない。瑠々ちゃんは俺に気を遣って、俺を傷つけないように、黙ってくれたんだって気がした。
こんな顔をさせるはずじゃなかった。本当はもっと、楽しそうな顔をしてもらうはずだったのに。
「お菓子、持ってくるよ。お茶も。待ってて」
頭の中はぐちゃぐちゃで、俺はそう言って自分の部屋に瑠々ちゃんを残して逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます