13.

自分の目で見たものが信じられず、額面を安野に見せると、すぐさま目を瞠った。

それから、「ちょっと待って」と小口から通帳を取った安野は指でゼロを何度も数えていた。


「······こんな額面、見たことがありません······。こんな短期間で一体どうやって······」


安野の呟きに、小口もどうやって稼いだのだろうとふと考えていた。

すぐさま思いついたのは、大河の父親にして姫宮の相手が相当な金持ちで、仮に事実婚だとしたら、慰謝料のようなもので、大河の口座に振り込んだのかもしれない。

だが、期間や振り込んだ額面から考えると、その線だと不自然なところがあることから、その考えは打ち消した。


他に考えられるとしたら、姫宮が大河のために入れていたということ。

ものに対して執着がなかったのは、代理出産で稼いだ金銭を大河のために振り込むためだったのかもしれない。


しかし、その線も薄い気がした。

仮に大河が父親と住んでいたとして、何らかの条件で姫宮が慰謝料という形で振り込んでいたとしたら、その線で一応辻褄は合う。

ところが、姫宮がどのぐらいから代理出産というのをやり始めたかは明確に分からないが、振り込まれた時期を考えると矛盾が生じ、それも違うということになる。


我が目を疑うような金額であるが、出どころが不明だと思うと、恐ろしさも感じてしまう。


「······どちらにせよ、この通帳は私が預かっておきます」

「とか言って、勝手に使うんでしょ」

「なんてまぁ、この子はまた人聞きの悪いこと······! そのようなことをするはずがないでしょ! あの姫宮様のご子息のために貯めた大事な大事なお金ですよ! そのような大変恐ろしいことをするはずがありません! とにかく、ふざけたことを言ってないで、大河さまのお世話をきちんとしておくように!」

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