12.

「それにしても、結構ありますねぇ。おえかき帳だけでも何冊もありますし、大河さまは絵を描くのがすごく⋯⋯」


早速何かを描いている大河の傍ら、勝手に中身を出している小口に安野が「こら、勝手に出すんじゃありません」と怒っているのを無視している最中、奥底に茶封筒があるのを見つけた。


「なんだろう、これ」

「どうしたのです?」

「あ、いえ。ダンボールの底にこんな封筒があって⋯⋯」


手に取ってみると、さほど重くもなく、されど少しばかり厚みのある物と、固い小さな筒状の何かが入っているようで、封筒が膨らんでいた。


「他のと比べるとなんだか異様ですね」

「そうね⋯⋯さっき確認した時気づかなかったけれど、私達が勝手に開けてもいいものかしらね」

「いや、開けちゃいましょう」

「え、ちょっと、小口······!」


躊躇していても仕方ないでしょと、止めようとする安野を尻目に、封筒から中身を取り出した。

中に入っていたのは通帳と印鑑だった。

大河の物と一緒に入っていたのだから大河の通帳であることは間違いない。通帳の名前にも『姫宮大河』と記載されている。


姫宮?


「······姫宮さま、籍を入れていなかったのですかね?」

「······その辺りのことは世間でもいますから、なんら不思議ではありませんし、その話はここまでにしましょう」


安野がちらりと大河のことを見ていた。

言わなくても言いたいことは分かった。

この話は大河の前で話すことではない。


「その通帳は私が預かっておきます」

「その前にどのくらい入っているか確認······」

「こら、小口。他人様の通帳を見るんじゃありません」

「······え、やば」

「何が?」

「いや、見てくださいよ」

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