10.

「そうなんですか。あなたさまの好きなものが知れて良かったです」


そう言うと男の子はアニメを観ていたのを、こちらにチラ見程度であったが見てきた。

少し驚いている様子で、つぶらな瞳を丸くしていた。


そんな驚くようなことを言っただろうか。


言葉を発しないから、男の子がどう思っているのかよく分からない。

難しいと顔を顰めた小口であったが、すぐにまたアニメの方へ目を向けていた男の子と共に観ることにした。



謎なアニメだったな。


最後まで観終わった小口は、そんな感想を心中に思いつつ、さて次はどう時間を潰そうかと考えていた時、男の子が辺りを忙しなく見回していた。


「どうしたんですか」


そう声を掛けると、男の子はビクッとし、恐る恐る小口の方を見ると、ゆっくりと口を開いた。

しかし、そこから発せられるのは空気が漏れるような音だった。


この子は口が利けないのか。


緊張して言葉を発しないばかりかと思っていたが、そうなのだろうか。

今も一生懸命何かを伝えようとしているが、男の子の口から言葉という言葉が出てこない。

やがて諦めてしまった男の子は落ち込んでいるような雰囲気で、膝を抱えてしまった。


こんな小さい子に一体何があったのか。

気になるが、今は男の子が言いたいことを知りたく、ポケットから携帯端末を取り出し、メモアプリを開いて、キーボードを出した。


携帯端末をどの程度扱えるか分からないため、一応簡単に教えて、「言いたいことを打ってください」と差し出した。

緊張した手つきで時間をかけて打った文字を見た。


『おえかきちよう』


『よ』が大文字になっているが、恐らく。


「おえかきちょう⋯⋯。絵が描きたいのですか?」


服が伸びそうなほど両手でぎゅっと掴んでいた男の子が二度頷いた。


「おえかき帳、買ってこないといけませんね。なんなら一緒に行きますか」

「その必要はありません」

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