Func4(){ Conected_USBhub( MyPhone ); }

「さて、どうしたものかな。これは……」


 流石の自分でも高らかに勝利を確信したばかりだったのだが、また条件の設定を見直さなければならないようだ。というわけで、条件を再定義する。


①相手はバッテリーの無いスマホを起動する事の出来るガチの怪物である

②それは原理的に、どう考えても残存電力では不可能な芸当である。

  仮に内臓のコンデンサ電気を一時的に貯める素子に溜まった電力を全解放しようと、このように持続した音を鳴らすのは明らかに不可能である。つまり、通常の現象では有り得ない。

③だが同時に、相変わらず自分のスマホにだけ御執心なのも変わらない。


ぴりりりりりり!


 さて、ここまで来れば流石の自分でも"どう考えても物理的現象としては説明不可能である"というのが分かる。「相手の能力を解析して超速レベルアップ」するつもりが、全く想定外の方向からアタックされている。レベリングの目論見は御破算だ。

 だが、だからと言ってやる事は変わらない。相手が自分に友好的なら交友を。相手が自分に攻撃してくるなら、それに対応するのが自分の流儀だ。プログラム的に言うなれば、インプットに対しては適切なアウトプットをキッチリ行うべきなのだ。


ぴりりりりりりりりりり!!


 どちらにしても、この相手はスマートフォンを無電源で動かしているが、どのようにして起電力を確保しているのかが不明だ。無理に物理法則で説明をつけようとしても、まず電源が不明だ。最も可能性のあるワイヤレス充電を選択するなら、原理的に数メートル先の電気製品を充電するのは不可能ではない……が、今のスマホは近距離用の密結合電磁誘導充電方式しか採用していない以上、専用の機器を作って多方向からピンポイントでスマホを狙うでもしないと難しい。うっかり近くにクリップでもあれば火事にでもなりかねないのでは?

 他にも光給電という方式も開発されているようだが、これも新しい技術なので上手くいくとは限らないし、そもそもスマホに受光装置が付いていない。大体、そんな見慣れない装置が自分の家にあったなら、下手すると分解している可能性まである。(前に盗聴器を見つけた時は感動したので、適当にPC経由でダミーのデータをランダムに流すように改造したが、あれは誰が仕込んで、まだ今も聞いているのだろうか?)

 ……閑話休題。何はともあれ、どんな方式であろうとバッテリーが無い状態で充電したところで動くとは思えない。


ぴりりりりりりりりりりりりり!!!


 つまり、これは明らかに異常で非物理的な現象なのだと考えざるを得ない。その方が、セキュリティ的にも機械的にも万全な状態だろうと関係なく……という話になる。こうなると、セキュリティや情報工学、自然科学の文脈で解釈するマトモな思考のほうが間違いなのだろう。

 ……ただでさえセキュリティ関係は専門外なのに、より専門外の方向に飛んでしまった。全く以てままならない。ホントに心霊現象なのかねぇ……


ぴりり!ぴりり!ぴりり!ぴりり!

ぴりり!ぴりり!ぴりり!ぴりり!


「だあああああああっ!うるさいっ!!」 


 蘊蓄うんちくを語らせるとうるさいと評判の自分でも、流石に物理的な五月蝿うるささには耐えかねる。何せ、知人友人からも


「アイツに蘊蓄うんちくを語らせるな」

「無限に知識を披露してくるぞ」

蘊蓄うんちくオバケなんだよなぁ」

「1時間は時間を喰われると思え」

「くそ喰らえ!うんち食え!!」

「怪獣うんちモンスター!!」


 ……という評判を頂くくらいなのだから、自分の知識に対するうるささには定評がある。ん?最後あたり単なる罵倒じゃないか?まあいっか。

 どちらにせよね……モノを考える時はね、誰にも邪魔されず、自由で。なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……


 というわけで、とりあえずこのピリピリピリピリとアピールを続ける我が愛機を、どうにかして黙らせなければなるまい。まず起電力が何から生じてるのかは不明だが、スマホを利用している以上は、電気を発しなければ動きようがない。つまり、のだ。そうと決まれば答えは一つ。


 俺は*3Dプリンターと高性能PCを起動しつつ、スマホから外したバッテリーパックを*ノギス精密 長さ測定器マイクロメーター超・精密 長さ測定器で採寸し、それを元にバッテリーパックのハリボテのようなものを作成する。

  *注釈: 技術・工学が趣味の特殊なご家庭にしか存在しません。

 そして3Dプリンターが動いている間は、適当な余物あまりもの電圧と電流を一定に保つレギュレーター回路を作り、出力側にはUSBハブを……そして入力側は「先程に作り終えたバッテリーのハリボテ」の端子部分に接続する。


 つまり、簡易的な「スマホ内の電気を外に流す装置」の完成である。

なおUSBハブには既にウン年前100均で買ったUSB扇風機のうち一台と、ついでに充電し忘れたモバイル・バッテリーが取り付けてある。さあスマホよ、我が愛機よ。蓋を開けてバッテリーがあった部分を見せたまへ。


ぴ、ぴりりりりり!?


 スマホが少し甲高い音になったが、まあどうせ五月蝿うるさい事に変わりはない。手の中で震えだしまでした……ええい、自分の許可なく振動バイブまで制御するんじゃあないッ!!

 スマホのバッテリーがあるところは、よく見るとマイナスからプラス部分へと細い電気の線が迸っている。雷みたく絶縁破壊しているにしては異常な光景だ……空気中のネオンやクリプトン電気を通しやすい希ガスでも集めて電離したのか?まあ何かしら心霊現象で無理に電気を通してるということは、そこに何か別の機械を繋いだところで、急に機械そいつが壊れるほど莫大な電流は流れていないことも意味しているだろう。とはいえ、回路には念の為サージ保護機能も付けてある。つまり問題はない。いざ!!接続コネクト!!!


 装置を取り付けると同時に、スマホは急速に電力を失い、一気に音はか細くなり、画面も暗くなっていく!そこを気合で持ちこたえる心霊現象!だが同時に回りだす扇風機!充電されていくモバイル・バッテリー!!音は自然と小さくなり、画面も何とか点いてる程度になり、モバイルバッテリーは緑に光って充電され、小型扇風機が俺の顔に心霊現象由来の涼しい風を流す!


 俺は図らずも無限(仮)の電気エネルギーを手にしたのであった……

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