Func3(){ Eject_Battery( MyPhone ); }

 ピンポーン!


 軽快なチャイムが鳴り響く。昨晩に注文した、電磁波シールドメッシュが届いたようだ……というのも、ネットで自作の簡易型電波暗室の作り方を調べたので、これを5G電波に対応させたものを作る事にしたのだ。

 なお電波暗室とは、簡単に言えば「電波を阻害する素材でできた箱ないし、部屋の事を意味する。まあ部屋そのものを電波暗室にするのはコスト的にキツイし時間もかかるし、大きな成果は意味はないだろう。仮にWi-Fi経由で侵入してるとしてもPC類は有線オンリーで無線での通信は閉じてあるし、パケットフィルタリング等も行ったので大丈夫と信じたい



 さて、電波暗室を作りつつも、まずは状況を確認しよう。現状の仮説は、大雑把に言えば以下の3つだ。


 ①まず相手は強力なセキュリティを軽々と突破し、当方のスマホだけを瞬時かつピンポイントに特定できるだけのネットワークセキュリティ突破能力がある

 ②また、相手は同時にOSまで侵食できる超強力かつ高度なAIじみたマルウェア(コンピュータウィルスないし、それに類する悪意あるプログラム)を作成できる

 ③それを何故か、しょうもない画像を送信する事だけに執心している


 これだけ分かれば十分だ。

 あとは、どうやってこの狂人の対処をするかだが……まずもって、即座の対処は難しい。要は、自分の情報処理能力を遥かに凌駕している。これが分かっただけでも収穫だ。つまり、今やってる情報処理対策はほとんど意味がない。正確には、効果があるとしても無闇矢鱈に関係のないセキュリティ技術ばかりを伸ばすだけになり、非効率的だ。

 のでセキュリティ対策はするにしても、今は即座にできる事だけに留める。まずは相手の能力や意図を測る事に注力し特化した方が良い。それに加えて上記の①〜③の内容を、より細かく突き詰めるべきだろう。

 極論、自分のスマホに執心している事から、スマホの特定とAIにだけ特化してる可能性もゼロではない……いや何故その2つだけ?となるし、それは無いだろうが。


 そうだな……例えば、古い他のスマホでも同レベルの事が可能なのか?特定のOSだけに特化してるなら、そのOSに対応するまでは時間が稼げる。

 例えば。相手の送ってきたマルウェアを特定して解析できるなら?そのソフトに特化した対策を組めば良い。また感染させるための経路やら手法も、そのネットワークのトラフィック等のデータさえ観測できれば推測できると信じたい……

 つまり画像を作ってくるだけの習性を逆手に、あえて被害を被ることで相手の手法を解析。これで自分のレベルを相手と同レベルまで強制的に引き上げる。これが現状での作戦だ。


 あとは……もし他のセキュリティに詳しい有識者に聞いて対策するにしても、ここまで異常なスキルを持った相手は少ない可能性が高い。本来なら上記の力量を測るのと同時に、そういった技術者のコミュニティに情報を投げておくべきだろうが……相手はネットワークセキュリティの鬼だ。つまり、そういった場所の住人という可能性もある。そこで動きを察知されれば動きを変えてくる可能性もゼロではない。なんでそんな化け物が俺に目をつけたのかは謎だが。


「……もしかして最も重要なのは③の、相手の習性だろうか?」


 そうだ、よくよく考えればを解決する方が楽かもしれない。そちらに対策を絞るべきなのでは……?と思ったところで、何か音がする。


 ぴりりりりりりり。

 ぴりりりりりりり。


 聞き慣れた電子音。

 まさかと思って振り返ると、そこには電源を切ったはずのスマホが。そう、新しい方のスマホだ。ば、馬鹿な……




 OSではなく、ICチップで制御してるはずの電源まで操作を?

 どうやって?まさか……ICとでも言うのか!?


 いや、流石にそれはないか。だが、どちらにせよ意味が分からん。USIMカードを抜いて初期化した以上、Wi-Fi経由であっても電波を拾うのは難しいはずだ。設定自体が消えてるはずだからな。

 それとも初期化では消せなかった……?いや、そうでなく初期化機能自体の発動を無効化したのか?いやそれもない。仮にそうだとしても音はどうやって鳴らしている?アラーム機能を制御してるのか?AIがか?全く理解不能だ。

 どちらにせよ、上記の仮説も方針も変えた方が良さそうだ……整理し直そう。


①相手は電源を切ったスマホを点ける能力を持った異常存在である

②その上で画像の送信だけでなく、USIMカードの無いスマホを鳴らす事も可能

③だけど、相変わらず自分の新しいスマホにだけ執着している


 つまり……コイツの正体は超々高度なAIそのもの!?そうでないにせよ、電源を切ったスマホが鳴るなんてのは遠隔操作では有り得ない。そのはずだ。

 だが、甘い。


 俺はスマホから電池を抜いた。


 スマートフォンはガラケーと違い、電池を交換できない……それは非常に凝り固まった偏見だ。昨年2023年EU欧州連合はバッテリーのリサイクル率向上などを目的に"スマートフォンなどはバッテリーを簡単に交換できる設計にしないといけない法案"を可決した。2027年には適用される予定らしい。交換可能にすると防水性や品質の担保が難しくなるし、何よりバッテリーの大容量化は難しくなる。

 だが、そもそも今でもバッテリー交換方式のスマホは現存するのだ!!(※一部の機種に限られます)それを自分は愛用している。

 バッテリー容量の問題など、そもそも2010年代のガラケー世代からすれば"予備のバッテリーを大量に持ち歩けば容量的な問題はないに等しい"のである。そして防水性の問題は防水カバーで解決する。

 まあ160Whを超えるリチウムイオンバッテリーは空港機内の持ち込みはNGだったりするが……スマホのバッテリー数個なぞ、そこまで大容量ではない。素の状態で持ち歩いたり、落としたりするアホな事さえしなければ大丈夫なのだ。


 AIにせよ人間にせよ、「自分の新しいスマホに嫌がらせをすることにだけ執着している」のであれば、最初からこうするべきだったのだ。どんなに異常なスキルを持っていても、電源が無いスマホは動くわけもない。それに気付かない全く自分の脳みそには ほとほと呆れるぜ……


 というわけで、混乱からか疲れからか勝利を確信した自分だったが……当然そんな言動は負けフラグでしかなく……



ぴ……ぴ…………

ぴりり……ぴりりりりり…………

ぴりりりりりりり!ぴりりりりりりり!



数時間後、開幕を告げるかのように、心臓バッテリー無き携帯電話は鳴り響くのであった。

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