04
◇◇
入学してしばらくはオリエンテーションや行事関係で目まぐるしい日々が続き、ようやく今日から授業がはじまった。
恭平が担当する数学は他の先生と違って自己紹介は済んでいるので、授業の説明の後早速新品の教科書を開いた。
前世の反省から、現世では真面目に勉強している。それでもやっぱり数学は苦手意識がある。恭平に悲惨な点数を見せないようにがんばりたい。
午後からは部活紹介が体育館で行われた。練習風景や、部活とは関係ないダンスの披露もあった。
はじまる前に配られた部活の一覧表を眺める。いよいよ次は入学する前から入りたいと考えていた部活の紹介だ。
マンガ研究会のイラスト一発描きが終わり、放送部のアナウンスが入る。
「天文部は現在部員がいないため、名前のみの紹介になります。これで、部活紹介を終わります。部活登録は――」
日程など大事な説明が右から左へと流れていく。掲示板に部活のポスターが重なるように貼ってある中で、天文部がないと不思議に思っていた。去年の文化祭ではたしかにあったのに、今は活動していないなんて。
部活紹介が終わり解散になる。周りはこれから何部を見学するかとにぎわっている。
放心状態で座っていると、「しお」と肩を叩かれた。
「天文部に入りたいって言ってたよね。どうする?」
「部員がいなくても紹介があったってことは、まだ残ってるってことだよね……」
「顧問の先生に聞きに行こうよ」
悩んでいるなら聞いた方が早い。てきぱきした亜子に背中を押してもらい、初めて職員室に入った。
「日野先生あっちにいるよ」
亜子の視線の先、職員室の左奥のかたまりが1年生の担任たちの席のようだ。左から2番目の席に恭平がこちらに背中を向けて座っている。
近づいて声をかける前に、恭平はパソコンの画面から振り向いた。
「どした?」
もともと緊張していたのが、視線が合ってさらに心臓が速く打つ。大人になった恭平と話すのは初めてだった。
「あの、天文部に入りたいと思っていて、どの先生に聞いたらいいですか?」
恭平はイスを体ごと回転させて、私たちと話す体勢をとる。
「部活紹介でも説明があったけど、去年全員卒業して、今は部員ゼロなんだ。去年の活動は週1回水曜日、毎月天文イベントとかを載せた新聞を作った。夏休みに天体観測の校内合宿と、文化祭でプラネタリウムの上映会、春に科学館のプラネタリウムにも行ったな」
すらすらと活動を説明され、マンガだったら頭にクエスチョンマークを浮かべているだろう私たちに、恭平はにっと笑った。
「俺が天文部の顧問。入部してくれたらうれしいよ」
新しい定期で駅の改札を通る。ホームの脇に桜が植えられて、風に運ばれてきた薄い桃色の花びらがコンクリートに散らばっている。
「天文部活動できそうでよかったね」
「ほっとした」
恭平が天文部の顧問だったなんて。流星群を一緒に見たこともあったけれど、当時は野球の方が夢中だったから意外な印象だった。
クラス担任で、数学の担当で、さらに部活の顧問となれば関わる時間も増える。うれしい反面、ぼろを出さないように気を付けないといけない。
「合宿楽しそう。私も入部しようかな」
「亜子も入ってくれるの?」
「週1なら華道部と兼部できそうだから」
亜子も去年一緒に高校の文化祭に来て、華道部に入りたいと言っていた。明日見学に行くという。部員が1人だけだと活動できないんじゃないかと心配だったから、亜子も入ってくれるならうれしい。
念願の天文部の活動に期待をふくらませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます