15
[遅れるからどっか入ってて]
バスが駅に到着したとき、優斗君からメッセージが届いた。
店に入ってもよかったけれど、優斗君がいつもそうしていたように、今は電球で飾られたもみの木の花壇の縁に座って待ってみる。
12月になって、あちこちでクリスマスの飾りを見かけるようになった。私はイルミネーションが好きで、去年は学校帰りに駅前のイルミネーションを友だちと見に行った。今年は優斗君とも見に行きたい。
ざあっと風で葉がこすれる音がした。風が冷たい。コートのポケットにはカイロが入っている。でも、緊張しているからか、寒さをいつもより感じない。
着信音が鳴った。名前を確認して電話に出る。
『今どこ?』
「ツリーの下」
『外!?』
電話の向こうからも人のざわめきが聞こえる。もう駅にいるみたい。
「『風邪ひくぞ』」
耳元と頭上から同時に聞こえた呆れ声。
電話を切って、私の頬に触れた左手は、あの日と違ってあたたかかった。
「冷たくなってる」
整わない呼吸から走って来てくれたことがわかると、胸の中にもあたたかいものが広がる。
「告白の返事していい?」
ぬくもりが頬から離れて、少し寂しいと思ってしまう。
優斗君は固い表情で、だけど瞳は真っ直ぐ私を映していた。
「遅くなってごめんね」
私も真っ直ぐ見つめ返す。
「恭くんへの気持ちはちゃんと恋だった。これからだって恭くんは私にとって特別な人だと思う」
「うん」
「それでね、それでも今はね、」
意地悪で、横暴で、笑うとかわいくて、時々優しい、そんな、
「優斗君が好きです」
優斗君はゆっくり
「嘘だ」
「失礼!」
私も前に同じように言った気がしないこともないけれど。
優斗君はしゃがみ込む。今度は花壇に座っている私の方が視線が高くなる。
「なんか、実感なくて。真面目な顔してるしフラれると思った」
たくさん待たせたけれど、優斗君が他の誰かを好きにならなくてよかった。私を好きになってくれてよかった。
「待っててくれてありがとう」
笑いかければ、優斗君は両手で顔を覆い隠す。
「優斗君?」
「今絶対にやけているから見るな」
好きだなあ。自然とそう思った自分に照れくさくなる。優斗君が顔を隠していてよかった。
つむじを見下ろしていると、ようやく優斗君が立ち上がる。
「あったかい所行くぞ」
差し出される手。重ねると引っ張られるように立たされ、ローファーの底がコンクリートに
スクールバッグを肩にかけ直した後、自分の身なりを確認して、優斗君を見る。
「友だちにも話したことないけど、実は憧れてたことあるんだ」
「なに?」
「制服デート」
八重歯を見せて笑う優斗君に、もう1回好きだなあと思う。
手を繋ぎ返して、寒空の下を歩きだした。
end
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます