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 保育園の年長組のときだ。

 隣のクラスの先生が結婚するというので、ビデオレターを贈るため、みんなでお祝いのメッセージを撮影した。


「ケッコンシキって何するの?」


 私はまだ結婚式に参加したことも見たこともなかった。

 担任の先生はにっこりと笑って教えてくれた。


「神様や大切な人たちの前で、好きな人とずっと一緒にいて、幸せになりますって約束するの」


 いいなあと思った。私も恭くんとずっと一緒にいたいなあ。


 恭くんはかっこよくて、優しい。良いことがあると、「よかったな」と頭を撫でてくれる。落ち込むことがあると、抱っこして「大丈夫だよ」と慰めてくれる。「恭くん」と呼ぶと、友だちや彼女といても、こっちを向いて笑いかけてくれる。

 一度、お母さんが風邪をひいて、恭くんが代わりに保育園に迎えに来てくれたことがあった。友だちにかっこいいお兄ちゃんがいていいなとうらやましがられた。


 だから、恭くんが大学生になって家を出ると聞いて、すごくショックだった。

 家の近くにあるイチョウ公園のすべりだいの下のトンネルでうずくまって泣いていたら、恭くんが探しにきてくれた。


「見つけた」


 出口をのぞきこんだ後、両腕を伸ばされて抱きあげられた。


「今までみたいには遊べないけど、夏休みや冬休みになったら会いに行くから」


 優しい笑顔で言われて、寂しさに涙をこぼしながら「うん」とうなずいた。


 私は恭くんが大好きだ。


[きょうくんのおよめさんになりたい]


 七夕の短冊に書く願い事は毎年決まっていた。


 けれど、成長するにつれて現実を知る。


 恭くんが彼女と歩いているのを見る度に胸が痛んだ。私と恭くんが歩いていても兄妹と間違われるだけ。恭くんと同じ制服を着た彼女がうらやましかった。もっと早く生まれたかったと何度も思った。


 ただでさえ不利なんだ。悲しんでいるだけでは現実は変えられない。

 年の差は縮まらないから、外見が少しでもつり合うように、ファッション雑誌を読んで服や化粧を研究した。

 恭くんのタイプに近づくために、本当は聞きたくないけれど、彼女の好きなところをたくさん質問した。「笑顔がかわいい」と聞けば、毎日笑顔を心がけ、「ありがとうやごめんなさいをちゃんと言えるところ」と聞けば、相手に伝えるように意識した。


 ひとまわりの年の差は大きくても、子どもの頃に比べて、大人になれば外見も内面も近づけるような気がする。

 もっと大人に近づいたら気持ちを伝えよう。それまでに恭くんに好きになってもらえるような女の子になろう。

 そのための努力も、かけた時間も、自己満足でも、他人から無駄だと思われても、私は一生懸命だった。


 10年間、ずっと恭くんだけを追いかけてきた。

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