07

「昨日、果乃と優斗君が歩いてるの見かけた」


 昼休み、ランチスペースで先に場所取りをしていると、梓に聞かれた。


「どこで?」

「駅。楽しそうに話してた」


 優斗君のことは梓にだけ話していた。

 優斗君と放課後遊んだのは、この前で2回目。1回目は最初意識しすぎて挙動不審になっていたらデコピンされた。しかも結構痛いやつ。


『俺には取り繕う必要ないんだろう』


 遠慮するたびにデコピン、と理不尽なことを言ってきたので、私も開き直ることにした。

 優斗君とは普段連絡はあまりしない。代わりに会うと話が続く。


「楽しそうに見えた?」

「楽しくないの?」

「楽しいから、困る」

「困る?」


 その理由をうまく説明できない。意地悪も慣れてきた。あれ、慣れていいのかな。

 どこかでブレーキをかけてしまう。それでいて、来週会えないのを残念に思う。矛盾している。


「来週文化祭の準備あるから遊べないって言われた。忙しいみたい」

「会えなくて残念なんだ」

「……うん」

「告白の返事はいつまで?」

「特に言われてない。なかったことにしろって言われたぐらいだし」

「優斗君、果乃と合ってると思う。果乃だって楽しいなら付き合ってみたら?」

「うーん」


 優斗君は告白、といってもはっきり言われたわけじゃないけれど、その返事について何も触れない。でも、待たせている。

 なるべく早く返事をした方がいいとわかってはいる。恭くんを好きな時間が長すぎたせいで、まだ次へ気持ちを切り替えられないのと、切り替えてしまうことがなんだか怖い。好かれているという感覚は心地よくて、もう少しこのままでもいいんじゃないかってずるい自分もいる。


 このもやもやをうまく説明できないうちに4人が購買から戻ってきた。みんなが席についてから私も保冷バッグからお弁当を取り出した。

 クラスは分かれているけれど、この6人グループで行動している。この前の合コンも部活があった芹那せりなとさゆりをのぞいた、由依、桃子ももこ、梓、私の4人で行った。


「果乃と梓も、来週土曜日にキタ高の文化祭行かない?」


 「キタ高」とは優斗君の通う高校の通称だ。由依が言い出したタイムリーの話題に内心驚いたものの、平静を装う。


「行こうかな」

「えー!」


 ぼそりとつぶやくと、みんなが驚いていた。桃子の声が一番大きかった。

 そんなに驚くことかなと思ったけれど、たしかにそういう場所は積極的に参加してなかった。


「恭くんにフラれたの!?」桃子が勢いよく食いついた。

「恭くんに結婚も考えてる彼女いた」

「私の胸で泣く? 絶壁だけど」


 隣に座るさゆりが腕を広げるので、「さゆり~」と抱き着く。

 私が恭くんに長い片思いをしているのを話していたので、みんな口々に慰めてくれた。


「行こう! 失恋から立ち直るには次の恋って言うし。なんて、私が藤君のバンド見に行きたいだけなんだけど」

「バンド組んでるの?」

「昨日遊んだときに聞いた。文化祭でも演奏するって」

「昨日、手繋いだんだって」


 先に聞いていた桃子がつけ足すと、「今いい感じなの?」と梓が聞く。


「彼女いらないって最初に言われたけど、手つなぎたいって言ったら、いいよって」

「私は合コン行ってないから藤君って人のこと知らないけど、話聞いてるとクズっぽくて心配」芹那が眉をひそめる。

「女友だちは多いみたいだけど……。でも、優しんだよね。一番は顔が良い」


 合コンに参加した他のメンバーも「顔が良い」には納得する。私にとっては恭くんが1番だけど、藤君は芸能人みたいにきれいな顔をしている。


「今は友だちでも、もしかしたら彼女になれるかもだから。まだがんばりたい」


 藤君が女の子と腕を組んで歩いていた場面を思い出す。傷つかないか心配だけど、恋に一生懸命な友だちを応援したい。


 梓も行くと言い、キタ高の文化祭にみんなで行くことになった。

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