04
土曜日の午後、恭くんと栞さんが家に来た。
祐輔だけ部活でいなくて、両親と私、それから近所に暮らすおじいちゃんとおばあちゃんも来て、ふたりを迎えた。
席が全員の数ないので、お客さんと大人たちはダイニングテーブルの席に座り、私はソファーでその様子を眺める。
「生徒と付き合ってたなんてびっくりした」
「卒業してからだから」
おじいちゃんの第一声に恭くんはすぐに否定する。そのやりとりを見て栞さんは微笑む。
「3年間担任で、顧問の先生でした」
「うらやましい!」
思わず本音を漏らすと、家族みんなに笑われてしまう。多分状況がわかっていない栞さんに、おばあちゃんが説明する。
「果乃は昔から恭平が大好きで。恭平が大学進学で地元を離れるときに、悲しくて家出したぐらい」
「恥ずかしいから私の昔話は禁止! 顧問ってことは、栞さんも天文部だったの?」
「はい」
「そういえばプラネタリウムで挨拶したことあるよね」
お父さんが聞くと、栞さんは頷く。
「3年前にお会いしました」
「そうだった。部員連れて科学館に行ったとき、ちょうど
栞さんは今大学生で、私より2才年上なだけなのに、ずっと落ち着いている。
恭くんが隣の長谷川家を家族同然に思ってくれているとはいえ、栞さんにとったら知らない人たちに囲まれて緊張しただろう。それでも、私たちの話も本当に楽しそうに聞いているように見えた。
(恭くんが大切にしている人たちを、大切にしてくれる人なのかも)
恭くんから紹介したい人がいると聞いた日からどん底に突き落とされた気分だったのに。思っていたよりも心穏やかに時間が流れた。
『今週の様子を見てるともっと落ち込んでるかと思った。大丈夫そうなら良かった』
夜、ベッドに寝転びながら電話で報告すると、梓にもそう言われた。梓は基本クールだけど、優しい。
『明日カラオケで発散する?』
「明日は映画観に行く。……男の子と」
そう、なぜか明日、東君と映画を観に行くことになった。
少し迷って付け足すと、予想通り梓は驚いていた。
『誰? この前の合コンにいた人?』
「いたといえばそうかな。料理持ってきた店員覚えてる?」
『男子たちと話してたような。あっちの高校の人だよね』
「うん。私生徒手帳失くしたでしょう。東君が拾ったらしくて、店に取りに行く途中で話しかけられた」
私は今日までの経緯を梓に話した。好きなバンドが一緒だったこと、金曜日に駅で恭くんと栞さんと会ったときに東君がその場から連れ出してくれたこと、カラオケで思い切り泣いたこと、歌が上手だったこと。
そして、好きなバンドが主題歌の刑事ドラマを東君も見ていて、その流れで公開中の劇場版を観に行くことになったこと。
『恭平さん以外男の子とはアドレス交換さえ嫌がってたのに、思い切ったね』
「友だちのノリで決まったのが、自分でも驚いてる」
恭くんばかりだった私は、男の子とふたりきりで出かけたことなんてない。
「今度いっぱいカラオケ付き合って」
『うん。明日楽しんできて』
電話を切った後、そのままスマホでインターネットを開く。
映画しか約束してないけれど、友だちと遊ぶときのように、映画の後に遊べそうな場所も調べておくことにした。
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