02(2)

 放課後カラオケ店に電話したら、部屋で私の学生手帳が拾われていた。

 梓にふられたので、ひとりで駅前の道路の信号を待つ。

 この駅から女子高へのバスが出ている。私の前に、私と同じブラウスの上に深緑のベストを着た女子高生がいて、白のポロシャツを着た男の子と手を繋いでいる。駅の近くの高校の制服で、昨日の合コンの男子たちもこの高校の生徒だ。


長谷川はせがわさん」


 自分の名前が聞こえて振り返る。ポロシャツを着た短髪の男の子が自分を見ていた。当然高校には男子はいないし、小学校の同級生でもない。でもつい最近どこかで見たような……。


「昨日カラオケで生徒手帳落としただろ」

「あ」


 昨日の店員だ。バイトの制服じゃないからすぐに気付かなかった。


「もしかして、中見た?」


 私の名前と顔を知っていた。生徒手帳に入れていた学生証を見たんだろう。


「名前確認しないといけなかったから」

「男の人の写真は……」

「拾ったときにたまたま」


 信号が青になった。人に押されるように一緒に歩き出す。


「彼氏いるのに合コンしていいの」

「彼氏じゃないもん」

「ふうん」


 そっちから聞いたくせに、答えたら興味のなさそうな返事。やっぱり失礼だ。


「写真の人が恭くん?」

「恭くんのこと知ってるの!?」

「廊下で恭くんに会いたいって叫んでたから」


 意地悪そうに言われた。そういえばこの人、おしとやかと言われた私を鼻で笑っていたっけ。


「恭くんかっこいいな」

「でしょ!」


 恭くんがめられたことで、腹立たしさはあっという間に消えてしまった。


「恭くんは顔がかっこいいだけじゃなくて、性格も優しいし、頭もいいんだよ」

「どんだけ好きなんだよ」


 店員はきょとんとした後、おかしそうに笑った。


「これから生徒手帳を取りに行くところだったの。今日もバイト?」

「うん。あのさ」


 店員は私のかばん、正確に言うとシロクマのキーホルダーを指さした。


「そのキーホルダーって、一昨年のツアーのグッズだよな」

「そう!」


 恭くんが好きなバンドで、すすめられて曲を聞いて私も好きになった。一昨年新しいアルバムを引っさげた全国ツアーがあり、恭くんとライブに行った。


「俺も行った。アコギの弾き語りよかったよな」

「鳥肌立った。サビの音程もちょっと変えてて、ああいうのはライブでしか聞けないよね」


 周りにこのバンドを好きな友だちがいないのもあって、ほぼ初対面なのにテンションがあがる。


「グッズ何買った?」

「パーカーとタオルとラババン」

「パーカー迷ったけど、私はTシャツにした。あとタオルとこのキーホルダー。こののときのライブの席、アリーナ席の5列目だっだよ」

「マジ? いいなー」

「顔とかばっちり見えたし、めちゃくちゃよかった」


 他にも過去のツアーや好きな曲の話をしているうちに、カラオケ店の入っているビルに着いていた。


「カウンターで生徒手帳のこと言えばいいから」

「ありがとう」


 店員は先に自動ドアをくぐり、そのまま右側のスタッフルームに入っていった。

 カウンターにはバリトンの声がすてきな店長がいて、名前と生徒手帳のことを言えばすぐに返してもらえた。


 お礼を言いたくてさっきの店員がまた出て来るのを待ってみたけれど、新しいお客さんが立て続けに来たので、諦めて外に出る。

 自動ドアが閉まってから、歌うつもりで来たことを思い出した。また入るのも恥ずかしいので今日はやめにした。

 学生手帳を開けば、裏表紙のポケットに恭くんのスーツ姿の証明写真がちゃんと入っていた。


(話続いた)


 たしか『東』と名札に書かれていた。またここに来たら会えるかな。同級生の男の子にそんなことを思ったのは初めてだった。

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