02(1)

 リクエストのあったアニメの主題歌を紹介して、マイクの音量を下げて切る。隣に座っていた梓が曲の再生ボタンを押した。

 放送部は昼休みに校内放送をしていて、私と梓は水曜日の当番だった。

 窓のない防音の放送室は、壁側に機材やCDラックが並んでいる。中央に机が置かれ、曲を流している間に私たちもお昼ごはんを食べる。


「恭くんが会わせたい人いるんだって」

「彼女?」

「みたい」


 昨日、その話を聞いてからパスタは味がしなくなった。恭くんが買ってきてくれたシュークリームも無理矢理お腹に入れた。その後どんな話をしたのかも記憶が曖昧あいまいだ。


 恭くんの家族とは、私の家の隣に引っ越してきてから20年以上の付き合いらしい。親戚よりも近い関係とはいえ、自分の家族に会わせるだけじゃなくて、私たちにまで彼女を紹介するなんて……。


「結婚するの?」

「いやあぁぁあ!」

「マイク切ってるよね!?」

「切ってる」


 切ってなかったら、私の叫び声が校内全体に響き渡るところだ。


「私が帰った後合コンどうだった?」

「1時間ぐらいファミレスでしゃべって、最後にアドレス交換して終わり。輝君が果乃の連絡先聞きたかったみたい。本人に聞いてからって教えてないけど」

「教えないでくれてありがとう」

「そのフレーズって普段使うことあまりないね」

「だって、ずっと恭くんばかり見てたから、同級生は子どもっぽく見える。梓もアドレス教えたの?」

「2人」


 女子からの視線を藤君が集めていたなら、男子からの視線は梓に集まっていた気がする。といっても、梓はクールビューティーなので、カラオケのときも学校での様子と変わりなかった。


「連絡来た?」

「昨日の夜と、今日も。授業中に送って来るのやめてほしい」

「全然楽しそうじゃないね」

「ときめきはないなあ」


 私の心がときめくのは恭くんの前だけ。昨日会ったばかりなのに、もう恭くんに会いたくなる。

 そんなときのために、学生手帳のなかに恭くんの写真を入れている。けれど、机の脇に掛けているスクールバッグのポケットを探っても、その学生手帳が見つからない。


「あれ、学生手帳がない」


 中身を全部取り出し、かばんの底まで探してもなかった。


「昨日家で出していないのに」

「カラオケで学生証見せたよね」

「かばんを倒されたときかも。あとで店に電話してみる。もしあったら梓もカラオケ行かない? 今日こそいっぱい歌おうよ!」

「今日歯医者」

「えー」


 梓はショートボブの髪を耳にかけて、呆れたように笑いかける。


「果乃って見た目と中身のギャップあり過ぎでしょう」


 私はよく大人っぽく見られる。それは服装も、化粧も、外見には気をつけてきたから。

 私は高校2年生。恭くんは29才。一回りの年の差は大きいけれど、少しでも恭くんにつり合いたかった。


(だけど、恭くんに、彼女)


「土曜日が怖いよぉー」

「そろそろアナウンスに切り替えるから、準備して」


 外見も中身も大人っぽい親友は、今日もクールビューティーだ。

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