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第39話

リョウも、ハルと同じだった。


恋愛には全く興味がなかったのだ。


そこから得られる「有益なもの」は何もない気がして。



だからこそ、共感し合ったのかもしれない、とリョウは思う。



ハルはたとえ相手が本気でも遊びでも、面倒な相手は無情に切り捨てる。


その時彼は、そういう対象者の目の前でリョウを世界で唯一大切なものであるかのようにふるまって、彼女たちのプライドと彼女たち自身を傷つける。


「誰かに遠慮して生きる必要はない。そんなにモテたくないならダサい恰好をしろという奴もいるけど、自分のしたい恰好をするし、行きたいところに行って、やりたいことをやるよ。他人から評価を受けたいから生きているわけじゃない」


それはとてもハルらしいと言えば彼らしい考え方だ。



人よりも優れた能力、そこから得る財力。人よりも優れた容姿、そこから周りを魅了する魅力。ドラマティックな出自と、輝かしい魅力に翳りを作る陰。他人からの評価を得ようと努力する必要がない、特別なひと。


強く、美しく、したたかなのに、ひそかに、ごくまれに……ぼろぼろのサンドバッグみたいになってしょぼくれるときもある。



ハルに冷たくされて、泣きながら去って行く女の子もいた。


そこまでしなくても、とユキヤが窘めると、「半端な希望を持たすよりは絶望させたほうが、本人にとってもいいんだよ」と答える。



だからこそ、自分は彼女たちと同じサイドに立ってはいけないと、リョウは経験から悟った。


他の人が知らない彼の色々な面を知ってしまい、いつしか育ってしまった思いを必死に覆い隠してきた。


ハルを失ってもいいと思えるような相手とは出会ったことはないし、これからも彼の代わりになるような相手とは出会うことはないと思うから。





池の水面には、月の分身が揺らめいている。


すうっと冷たい秋の風が撫でると、それはぼんやりとにじんで伸びる。


「月の道」


ハルが目を細めて言う。


「え?」


リョウは首をかしげる。


「ああいうやつ。月光が水面に細長く映ると、道みたいに見える」


「ああ。なるほ……っくしっ!」


リョウがくしゃみをする。



「なんだリョウ、昨日から」


「うぅ。ちょっと寒くなってきた」


「戻るか。風邪ひかないうちに」


ハルはベンチに敷いていたショールをリョウに頭からかぶせてぷっ、と吹き出した。


「マトリョーシカみたいだ。かわいいから、そのまんまで」


「心にもないことは言わないこと!」


「なくもないけど。戻って風呂であったまりな」



「……」


「?」


何かに呆然として目を見開いたまま固まるリョウを見下ろして、ハルは首をかしげる。


リョウは……ちょっとだけ、意地悪なことを言ってみたくなった。


そして彼女は、何も深く考えずにハルを見上げて声を発した。


「先輩」


「うん?」


「十二時間ルール、発動しようか?」


「——はっ?!」



ハルは驚きすぎて口をぽかんと開いた。

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