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第30話

「なによぅ、この、悠人はると! 普段は何言っても平然としてるくせに、ワイン飲んじゃったくらいでびっくりするな!」


「なんだ……今夜もお前は絡み酒か」


ハルははぁ、と肩でため息をついた。そしてリョウの前に歩み寄って、彼女の手から空のボトルを抜き取ってワインクーラーの中に沈めた。


「夕飯、片づけてくれるように頼んでおくから、あっちに座ってな」


力の抜けたリョウの両手首をつかみ上げて、ハルはリョウをソファに座らせた。ぐらりと傾いて、リョウはそのままソファにうつ伏せになる。ハルは内線をかけて、食事を下げてくれるように頼む。





ぷつん。





はっ、と目を覚ますと、リョウは上半身を起こして眠りに落ちる前のことを思い出そうとした。


ソファの前のローテーブルのスマホを覗き込むと……小一時間ほど、眠っていたみたいだ。


「……」


ハルの姿は室内にはない。ぼうっとしたまま見回すと、コートを着てバルコニーにいるのに気づいた。誰かと……スマホで話している。



(間宮さんと話してるのかな……)



良く回らない頭で考えてみる。



(楽しそうに話してるな……きっと、いえ、絶対に間宮さんだな)



すん、と鼻をすする。自己嫌悪が最大値を超えて、いますぐ異世界にでも消えてしまいたい気分。



「水……」


水が飲みたい……と思ったら、テーブルの上にはすでにミネラルウォーターのペットボトルとコップが置かれている。ご丁寧に、キャップは緩められて。


「……」


ちょろちょろ……コップに注いで、ぐいっと喉に流し込む。




「起きたのか? 酔っぱらい」


ハルが室内に戻ってくる。


「ん。トイレ。あと、お風呂に入る」


のろのろとリョウが立ち上がると、ハルが肘を支えてくれる。


「トイレはいいけど、風呂はもう少し酔いがさめないと危ないよ」


「ヤダ。眠いからもう寝るの。でも、風呂に入らないと寝たくないの」


「そんな酔っぱらったまま入ったら死ぬぞ」


「ヤダ。入るの。ここの部屋風呂は二十四時間入れる半露天風呂だって、シンイチロが言ってたじゃん。入りたいの」


「酔いがさめてからにしろってば」


「ヤダヤダ。入ってから寝るのぉ!」



幼児のようにヤダヤダと首を横に振り続けるリョウに観念して、ハルは大きなため息をつく。


「わかった。特別に譲歩してやろう。俺がドアの外で待機する。音がしない状態が三分続いたら、生きてるか確認するよ」


「はいはい、それでいいから、入って来る」



シラフの状態ならば絶対に言えないことを口にして、リョウはへらへらと笑う。




――翌日ハルからたくさん皮肉を言われることなど、まったくの想定外で。

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