4

第25話

お腹の大きな彼女の代わりに、葛西は後片付けをしている。ハルはしぶしぶ手伝わされている。


「”エアエデ”だよ。ちょっと言いづらいかなとも思ったんだけど……英語の発音なら”イェーエダ”的な感じになるけど」


「何語ですか?」


リョウが首をかしげると、くるみは柔らかく笑んだ。


「略語なんだ。もともとはハワイ語でね」


「へぇ。どんな言葉でどんな意味?」



「”Eia Au Eia Deエイア アウ エイア オエ.”  意味は、『私がここにいて、あなたがここにいる』。すてきじゃない?」


「あ、新婚旅行はハワイでしたっけ? 動画見ました」


「正解~。それはここ・・に刻まれた言葉なの」


くるみは左の薬指の銀のハワイアンジュエリーのリングを指さした。


「わぁ~。それいいかも。トップページに宿の名前の由来として載せれば、カップル受けするでしょ!」


「いいねいいね! ターゲットはカップル、家族連れあたりね。カップルなら若者世代からシルバー世代まで幅広く!」


リョウとくるみはぱちんとハイファイブして盛り上がる。



「あんまり興奮すると、赤ん坊が飛び出てくるぞ」


ハルが戻ってきて一人掛けソファにだるそうに座る。


くるみはフンと鼻で笑う。


「鴻上君も変わらないよね。相変わらずAIみたいでさ。あんたほんとに生身の人間?」


リョウはぷはっと吹き出す。


「くるみ先輩も相変わらず言うことが面白いよね。みんな思ってても口にしないことを面と向かって」


「は? なんだよ、誰だみんなって。誰が俺をAIとか言ってるって?」


ハルが目を細める。


「あはははは。学生の時、あんたにフラれた女子がみんな言ってたよ! 冷たすぎてあれは人間じゃないってさ」


くるみはソファをばしばし叩いて笑う。


「シンイチロ。お前のヨメは相変わらず失礼な奴だな」


デザートの洋ナシをカットして持ってきた葛西に、ハルは不機嫌そうに言う。


「悪いな、でも大目に見てやってくれ、妊婦だから」


「そうだよ先輩、それよりもさっきいいアイディアをくるみ先輩と思いついたんだ」


「なんだよ?」


「宿の名前ね、それをね……」



そのまま四人で企画会議になって、気が付くとすでに日が傾きかけていた。



「ホームページに使ってほしい画像はこの前プロに撮ってもらったデータがあるんだ。でも、お前たちもいろいろと撮ってみて。明日からはお前たちのほかに二組、モニター宿泊者がくるよ。この週末は合計三組だな」


「まだオープン前なのに?」


「ま、友達とか取引先関係とかだけど。オープンしたら口コミ書いてもらうってことでな。年末前まで、毎週末、二組くらい格安でモニター宿泊してもらうんだ」


「周辺にもいくつか見どころはあるから、行ってみて。岬とか池とか」



葛西とくるみは顔を見合わせてから、リョウとハルににっこりと笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る