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第24話
「葛西先輩の実家って……」
飛行機からレンタカー、船、そしてまた迎えの車に乗り換えて合計4時間(待ち時間含む)。
「遠ぉ……」
小さな島の、海辺の宿。
どこか南国の静かな島みたい。
「そうなんだよ。遠いんだ。それを逆に売りにしようと思ってるんだ」
迎えに来てくれた葛西は、ハンドルを握りながら笑った。
後部座席にはぐったりとして海を眺めているリョウと、涼しい顔のまま座っているハル。助手席には二人の手荷物が置かれている。
「お前、少し体が丸くなったな」
ハルの言葉に葛西は明るく笑う。
「そうだろそうだろ。ここは空気も飯も最高で、人間関係とかも単純だからストレスたまんねぇんだわ。この前オンラインでユキと話したけど、あいつもお前も変わんないな。リョウちゃんはすっかり仕事ができる女! って感じになって。まだハルとユキのとこで働いてるんだ?」
「ははは。おかげさまで。くるみさんもお元気なんでしょう?」
リョウは愛想笑いを浮かべた。
「ああ、元気だよ。宿で昼飯の準備して待ってるよ。いまちょっと車の乗り降りも大変でさ。もうすぐ臨月なんだわ」
「いいですね。宿のリニューアルオープンにお子さんまで」
「うんうん、こういうのが幸せって言うんだな」
道端に立つ、小さな木の看板。
ウッドバーニングで『EAEDe』と書かれている。
亜熱帯の木々で覆われた駐車場から小石を敷き詰めた小道を入って行くと、真新しい木造のアイランドスタイルの宿が見える。
「すてきですね」
リョウの言葉に葛西は嬉し気にうなずく。
「やっと夢がかなったんだ」
「いらっしゃーい!」
木製の観音開きの正面扉が開く。お腹の大きな妊婦がにこにこしながら手を振って三人を出迎えた。
「うわ! くるみ先輩! 今にもはちきれそう!」
「あ、岡野、久しぶり」
リョウとハルが挨拶すると、くるみは満面の笑みを浮かべた。
「ふたりとも、久しぶり! どうぞ、入って!」
海を見渡せるウッドデッキに続く、天井の高いロビー。
すでに完成したが、オープンは来年頭の予定だと葛西は車の中で言っていた。
大きなおなかの妻を気遣う優しい夫の顔をした葛西を見て、リョウは感慨にふける。
九年前、彼はユキヤとつき合っていたくるみに片思いしていた。お互いの性格に耐えられなくてユキヤとくるみが友達に戻る宣言をすると、彼は勇気を出して彼女に告白した。まだ気分じゃないと一度は振られたけれど、それでも彼は諦めなかった。
卒業で離れ離れになっても彼の片思いは続いて、つい三年ほど前にやっとつき合うことになったらしい。子供ができたことをきっかけに去年結婚したという知らせが、ユキヤとハルのもとに届いていた。
結婚式は海外で親族だけで行い、友人たちには動画を送って報告した。
「それで、外の看板も見たんですけど。宿の名前、なんて読むんですか?」
食事が終わってソファに移り、リョウはくるみに尋ねた。
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