二人で……出張。

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第22話

真夜中を過ぎた東雲しののめ家のリビング。


東雲夫妻はウォッシュドチーズを肴にカリフォルニア産のカヴェルネ・ソーヴィニョンを楽しんでいる。



「ユキ。正直におっしゃい。前々回も前回も失敗に終わったから、ついに思い切った手にでたでしょ」


ユマは彼女の膝枕でホットアイマスクを堪能している年下の夫の額を、人差し指でぐりぐりと押した。


「ちょっと、ユマちゃん、ツメ刺さってんだわ。ジェルネイルの長ツメって凶器じゃん」


「ふふふ。額に穴が開く前に質問に答えてごらん?」


「あー、そうだよ。その通りだよ。俺がマジで元カノと会うのが気まずいとでも思ったの?」


「あんたの性格だと、全く平気でしょうね」


ユマはユキヤの額をぺちぺちっと叩いた。



「正解。でもまあ、リョウにはそう思わせておいたほうが都合がいいでしょ」


「でも大丈夫なの? もう九年も、ことごとく失敗してきたんでしょ?」


「だからこそ、だよ。十年目に突入する前に俺がカタをつける」


「でも今、本人たちそれぞれにつき合ってる人がいるんじゃない?」


「甘いな、ユマちゃん。俺は人生の半分、ハルとつるんでるんだ。ウソとマコトの違いはわかるんだよ。この際、ぐらんぐらんに振り回してやるわ」


「これ失敗したら、シャレにならないかもよ?」


「このままじゃよくないって、ユマちゃんも言ったじゃん。九年だよ、九年。あいつら、ほんとにバカじゃないかって」



ユキヤがホットアイマスクを外して起き上がり、テーブルに置いてあったワイングラスを取ってグイっとあおった。


「慎一郎には、あいつらにモニター体験させろって言ってある。とっととなるようになればいいんだよ」


ユマはふっと苦笑を漏らす。


「うまくいくといいけど……」




・✦・




(絶対に、面白がって企んだに決まってる!)



それはわかっている。


ユキヤのあの、好奇心にキラキラと輝いた目。


この九年間で何度も見たことのある、いたずらっ子のような表情。



小学生でアプリを開発した天才少年のユキヤは、高校で同じような天才少年ハルと出会って改良したアプリをアメリカの企業に売却して大金持ちになった。


近づいてくる人たちは彼のおこぼれにあずかろうとするような輩ばかり。だから彼は他人には心を開かない、用心深い性格になっていた。




九年前。


ハルは偶然にも二回続けてリョウのピンチを救った。


放っておけなくてついつい世話を焼き、ハルがリョウを自分のそばに置き始めたことに対して、ユキヤはリョウに対して嫉妬心を燃やした。


「バイトするならうちでしろ」


ハルはリョウをユキヤと作った会社にまで連れてきた。


ユキヤにとってそれは信じられない出来事だった(らしい)。



初めはリョウに対してやけに冷たかった。


ハルと三人でいても、リョウはユキヤとはほとんど話さなかった。


それが変わったのは、梅雨時のある金曜日だった。

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