4

第20話

「生島様がお見えになりました」


受付の女子社員がハルに告げる。


「会議室にお通しして、キャラメルマッキアートお出ししてください」


ハルが支持すると、女子社員ははいと答えて去って行く。



「また生島さん……」


キーを叩きながらぼそっとユマがつぶやく。


「最近よくいらっしゃいますねぇ」


こちらもキーを叩きながらリョウが肩をすくめる。


「来る必要なくない?」


「ないですよ。打ち合わせは電話でもオンラインでもできますしねぇ」


「多田さんも大変ね」


「確かに……」


二人はふ、っと苦笑する。



ハルがファイルとタブレットを持ち席を立つ。


そのあとを社員の多田が小走りでついて行く。彼は入社四年目、リョウの一年後輩にあたる。


Webサイトおよびアプリ開発からリリースまでひと通りできてしまう代表二人が何らかの業務にあたるときには、やがてその役を担う社員がアシスタントとしてつくことになっている。


今回、ハルを指名してきた個人事業主の女社長が、企画の段階で変更があるの相談があるのと、やたらと来社してはハルを呼び出しているのだ。


社長でクライアントの生島瑞姫いくしまみずきは資産家の娘で、オンラインショップを立ち上げて韓国の化粧品や若い世代向けの服を売っている。


小柄で小悪魔のような、いかにもほしいものは何でも手に入れる的な、ちょっと性格が悪い感じの二十四歳。



「明らかにハルちゃん狙いね」


「そうみたいね」


だからハルは彼女が来社するといつも、多田を一緒に連れてゆくのだ。会議室で二人きりになって迫られたくないようだ。


「いいの? ハルちゃん、なんか嬉しくなさそうだけど」


「いいんじゃないですか? まぁ、先輩のタイプではないだろうけど、仕事だと割り切っているでしょ。鬱陶しければ助けを求めてくるだろうし」


「……そうね」


ユマは諦めてタイピングに集中する。


リョウは気づかれないように平静を装って、手にしたペンをくるくる回す。



(生島さんはどうってことない。だって先輩には葵さんがいるから)





先日。会社の入っているビルのエントランスで、リョウは生島瑞姫にばったり会った。


彼女はリョウを頭のてっぺんからつま先まで三度見してから意地悪そうな笑みを浮かべた。



(あれ、なんだったんだろう? マウンティングでもされたのかな? まあ、どうでもいいけど)



膝上十五センチのタイトなミニスカート、胸元が深く開いたブラウス。十センチのピンヒール。


クライアントなので丁重にご挨拶をすると、彼女は顎をくいっと上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る