3
第19話
待ち合わせのレストランは大きなホテルの20階のイタリアン。
高梨の名前で予約してあるという席に案内されていくと、夜景をバックに窓辺の角席にいた一人の男が席から立ち上がってリョウを迎えた。
ネイビーのスーツの背の高い男は、はにかんだ笑顔を見せた。
「
椅子を引いてくれたので、お礼を言って席に着く。
さわやかで誠実そうな感じ。
にっこりと営業スマイルを浮かべ、リョウも自己紹介をする。
「望月
シチリア産のオレンジワインで乾杯して、食事を楽しもうということになった。
「今日のことは負担に思わないでください。僕が仕事ばかりなのでイトコが時々こういう仕込みをするんです」
「山王寺さんならお見合いなんて必要なさそうですけど」
「はは。僕はまだ結婚より仕事が大事なんです」
リョウはくすっと笑う。
三十二歳の山王寺はサラサのMD本部の本部長らしい。本人曰く「仕事中毒」ではあるが、職業柄、知識が豊富で話題が途切れることはない。ひけらかしや自慢をすることが一切なくて、話を聞くのもうまい。
ドルチェが出てくるころには二本目のワインも底をついて、二人は結構ぶっちゃけた話までするようになっていた。
たとえば山王寺が四年前に別れた恋人のことをまだ引きずっているとか、今は仕事第一で恋愛なんて面倒だからあえて誰とも付き合わないとか。リョウはつき合っている相手にプロポーズされると途端に不安にさいなまれて逃げ出してしまうとか。
「よろしければまたお誘いしてもいいですか? お酒はワイン以外もいけるでしょう?」
「はい、なんでもいけますよ」
「頼もしいですね。では、飲み友達になりましょう」
「喜んで」
――ということで。
「はい?」
ユキヤは目を大きく見開いて首をかしげた。
今聞いたことが1%も理解できていないというような表情。
「だから。とりあえずこれからも時々デートすることにした」
リョウはにっこりと微笑んだ。
「つき合うってことか?」
ユキヤの目が泳いでいる。自分がけしかけておいて、思わぬ方向に事が運んで戸惑っているようだ。
「何回か会ってみてから決めるわ」
「……そっか。うーん? とりあえず、ヨカッタネ?」
頭上に「?」をいくつか浮かべながら、ユキヤは左右に首をかしげた。
上機嫌で席に戻ったリョウをちらりと一瞥すると、ユマはユキヤをキッと睨みつけた。
壁側の席では、ハルが涼しい顔でさくさくと業務をこなしている。
ドアのそばのパーテーションのむこう側からは、悲しそうなタクミが半分だけ顔を出していた。
表面上その「お見合い」は成功ということになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます