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第18話
「仕事ばっかで恋愛しないイトコに、出会いを作ってあげたいんだってさ。もちろん、強制じゃないってさ。
はははー、と乾いた愛想笑いをするユキヤのことを横目で睨み、ユマは顎を引いて言った。
「断っていいのよ、リョウちゃん。千万単位の案件が何だって言うのよ」
リョウははぁあ、とため息をついた。
「一回……会うだけでいいんだね?」
ユキヤの顔に喜びが広がる。
「えっ? 行ってくれるのか?」
「一回だけでいいなら、ね。私も……サラサの仕事なら受けてほしいし」
レディースメインのアパレル、『サラサ』。
ここ数年で急成長を遂げ、業績はずっと右肩上がり。シンプルでエレガントなラインは世代を問わず人気を得ている。
何を隠そう、リョウもサラサの服が好きでクローゼットの占有率も高い。
「リョオォォォォッ! ありがとなっ! 特別賞与出すわ!」
「でも、そういうのはこれっきりにしてよね?」
「わかったわかった」
さっそく高梨さんに連絡入れると言ってユキヤがスキップしながら会議室を出て行くと、ユマが申し訳なさそうな表情で言った。
「ごめんね、リョウちゃん」
リョウは苦笑して左手をぶんぶん振った。
「いいよ、ユマさん。どうせろくなお願いじゃないと思ってたし。一回会えばいいだけなら、どうってことない。高梨さんなら常識ある人だし、たぶん冗談みたいなお願いだと思うし」
――とはいったものの。
楽しみに思えるはずがない。
お見合いの日。
「嫌なら行かなくていいよ」
ハルが少し不機嫌そうにそう言うと、リョウは薄い苦笑を浮かべた。
「大丈夫だよ。一回だけ会えばそれで終わりでいいらしいから。でもどうしても耐えられないときは連絡するよ」
「わかった」
ユキヤがお見合いの話をした日から、ハルは機嫌が悪い。
「今度そいう話を冗談でも軽々しく受けてきたら、お前とは絶縁するからな」
冷ややかにそう言い放ったハルに、ユキヤは契約書を書かされた。
そこまですることはないんだけど……と苦笑するリョウに、ハルはくどくどと説教を始めた。
「お前がそうやって甘い顔するから、こいつがそういう安請け合いをしてくるんだ。これはパワハラだぞ?」
「あはは。ユキ先輩のパワハラなんて、なんか面白すぎる」
「リョウ。こんなお願いはもう引き受けなくていい。お前が犠牲になる必要はないから」
「なんだよぉ。お見合い相手がろくでもないやつって前提で怒るなよぉ。あのイケメンの高梨さんのイトコだよ? 期待してもいいじゃないか。俺だって、もしもこれでリョウが逃げずに幸せになってくれたら嬉しいし」
「うるさい。お見合いならお前が行け」
「俺は既婚者だぞ? なんならいっそお前が行けよ」
「じゃあ、俺が代わりに行ってくるよ」
突っ込みどころ満載の会話にリョウは割って入る。
「ええ? べつにいいってば。一回でいいなら、私が行ってくるから。高梨さんの提案なら、ただの冗談だと思うし」
「ほらぁ! 本人がいいって言ってるんだ、もう十八の小娘じゃないんだから、お前もいい加減に保護者面はやめろって」
くちびるを尖らせるユキヤを、ハルは冷ややかに睨みつけた。
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