A blind date

第17話

タクミが入社してきて一週間が経った。



相変わらずカルガモのひなみたいにリョウのあとをついて回ることもあるが、リョウが嫌がるのでだいぶ落ち着いてきた。


木曜日の午後、リョウはユキヤに会議室に呼び出された。



行ってみると、そこには眉間にタテじわを寄せたユマと青ざめた顔のユキヤがいた。


「ごめんっ、リョウ! 一生に一度の俺のお願いを聞いてほしいっ!」


ユキヤは両手を頭の上に上げてすり合わせた。ユマは不機嫌そうに年下の夫を横目で睨んだ。


「なにがごめんなの? 先輩。一生のお願い、これが何度目か覚えてないの?」


リョウは二人の向かい側に座って首をかしげた。


ちらりと、ユマを見る。彼女は微かにうなずいた。



(ああ、きっとまたなんかよからぬことね)



リョウは小さくため息をついた。ユキヤの「一生のお願い」は、過去の経験からしてろくなことがない。



「それで? とにかく言ってみて?」


ユキヤはぱっと顔を上げ、すがるような目で……いや、視線ですがりながら言った。


「頼むから、一回だけ! でいいから、会社のためだと思って、見合いしてきてくれないか?」


「は?」


リョウは驚いて口をぽかんと開けた。


ユマがため息をつく。


「リョウちゃん。このお調子者のシャチョウサンが、やらかしてくれたわ」


「どういうことなの? ユマさん」


「ある千万単位の仕事を受ける代わりに、先方さんのふざけた申し出を気軽に受けて来ちゃったのよ。それがあなたのお見合い」


「はいいい?」



リョウは再びユキヤを見る。


「先輩? どこにお見合いに行けって? いやちょっと待って、まさか、『アット』のあのセクハラ企画課長とかじゃないよね?!」


ユキヤはちらりと妻を見て、真っ青な顔でリョウに両てのひらを見せた。


「ああああ、あいや、まさか! そんなお願い受けてきたら、俺はユマちゃんとハルに殺されるだろ! てか、俺だって行かせるわけないし!」


ともすればリョウよりも年下に見える究極のベビィフェイスのユキヤは、カツアゲされる中学生男子のように怯えた表情で首を横に振り続けた。


リョウは半眼で冷ややかにユキヤを見つめる。


「じゃあ一体、どこの誰のお願いで私を売ったの?」


「い、いや、売ったとか、お前、人聞きの悪い。そんなにえげつない条件じゃなかったんだ。一回、会うだけでいいって。もし断っても、仕事に影響は絶対にないって言うから……」


「だから、どこの誰が?」


「『サラサ』の広報部長」


「は? え? それって、高梨さんのこと? あの人、既婚だよね?!」


「いやいや、あの人自身じゃなくて。同じ会社に勤めているイトコとお見合いしてほしいんだってさ」


「どうしてそうなったのよ?」


リョウは呆れてテーブルをばしっと叩いた。

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