第15話

アジアン・ダニングバーの個室。


参加者計十三名での、タクミの歓迎会。


テーブルの角で、ユキヤとユマは顔を寄せ合ってひそひそと話している。



「なにあれ? 本気なの? あの子」


ユマの言葉にユキヤはくすっと笑ってうなずく。


「そうらしい。新しい彼氏の座を狙うって、昼間宣言してた」


彼らの視線の先には、リョウにぺったりと張り付いている主役タクミがいる。


「なかなかあざといけど、でもリョウちゃんはわんこがじゃれついてるくらいにしか思っていないみたいよ」


「そうだね。リョウは目が肥えすぎてるから、タクミじゃ落とせないかもな」


そして二人の視線は……リョウの向かい側でほかの社員たちとのんびり話すハルに向けられる。


ユキヤはユマにビールを注ぎながら言う。


「あいつは目の前で第三者のあんな猛烈なアプローチを見ても、めっちゃ涼し気な表情のままだわ」


ユマはくすっと笑って肩をすくめた。


「ふふん。すましちゃって。新人君がもっと頑張れば、面白いものが見れるかもね?」




「ちょっとタクミ君、近すぎ。べたべたしないでよ」


「すみません僕、ちょっとひとよりもパーソナルスペース狭めで」


「ついでにメンタルも強めだよね。ええぃ、手。握らないでよ、暑苦しい」


タクミがテーブルの下でつないできた手を払いのけ、リョウは席を立つ。


「トイレに行くからね。タクミ君は先輩たちの席を回っておいで。まずはシャチョウにゴマすってみて」




「あ、逃げた」


ユキヤがハイボールを飲みながらからかう。


「見えてるし。実況中継はいらないから」


ユマがユキヤの腕をぺしっと叩く。


「タクミはなかなかのつわものだな」


「打たれ強そうな子ね。きっぱり拒否られても動じてないわ」


「いいぞいいぞ。引っ掻き回してくれよ、新人君。いい反作用起こしたら特別ボーナス出しちゃうぜ」


「大口叩いて。投入するのはあの子だけなの?」


「いいや。第二弾も仕込んであるよ。あいつだけじゃ心もとないから」


社長夫妻はハルを見て、そして再びタクミを見た。


今やタクミは二人の女子社員たちに両脇を固められていて、楽しそうにしている。


リョウとユマ以外では二人しかいない、リョウより若い女子社員たちだ。



店の外にある入店待ちのベンチに座り、リョウは気疲れのため息をつく。


「リョウ」


外にできてきたハルが、リョウのバッグを差し出す。


「ほら」


「ありがと」


二人は並んで歩きだす。



「ねぇ先輩。タクミ君、なんかあやしくない?」


「何が?」


「なにか、企んでる感じ」


「何でそう思うんだよ?」


「目がね……目だけは素なんだよ。今の若い子って、なんか怖いよね」


ハルはふっと笑う。


「若い子って……お前あいつと四つくらいしか違わないだろう」


「でもさ……」


リョウが言いかけたとき、ハルのスマホがブーブー鳴りだしたのでリョウは口をつぐむ。



それは「どうぞ、出て」という暗黙の了解なので、ハルは歩きながら画面をスワイプスして落ち着いた低い声で話し始める。


あおい。なに?」


ぴく、とリョウのバッグを持つ指先が動く。

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