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第13話
「僕、ずっとリョウさんのことが好きだったので、一緒に働けて超嬉しいです!」
何の罪もない、純粋な笑顔。
いや……
純粋、ではないはずだけど。
純粋に見えるあざとい笑顔、が正解だろう。
「おお、リョウ。今度は年下か?」
エナジードリンクを冷蔵庫から取り出しながらユキヤがにやりとする。
「えっ、なに? リョウさん今は彼氏いないの? なら僕が立候補!」
タクミがあざと顔で手を上げる。
その手を横からぺしっと叩き落し、それからリョウはユキヤのほうを睨んだ。
「入社一日目でふざけすぎ。立候補いらないし。それに先輩、またそんな体に悪そうなもの飲んで。夫人に言いつけますよ?」
「おお、タクミ! 秒で玉砕したな! かわいい顔してるのに、お姉様には通用しないみたいだな!」
大げさにぱちんと指を鳴らすユキヤの背中をリョウがひっぱたく。
「うーん、残念ですね。でも諦めません!」
タクミはさわやかな笑顔で小首をかしげる。
「何を、諦めないって?」
あくびをしながら入ってきたハルがタクミの頭を鷲づかみにしてわしゃわしゃと撫でる。ユキヤがにたりと笑んでリョウを見る。
「タクミがリョウの彼氏に立候補するって」
「いやだから、当分要らないってば!」
エナジードリンクのステイオンタブを開けて口をつけようとしたユキヤの手から、リョウは忌々し気に缶を奪い取って中身をシンクに流し捨てた。つまらない煽りをした腹いせだ。
「あーっ、もったいなー」
「お前また、そんなの飲もうとして。ユマに言いつけるぞ?」
ハルがあきれ顔で言う。
タクミが大きな目を見開く。
「わっ。同じこと言ってる!」
ハルが首をかしげる。
「誰と? 何が?」
「奥さんに言いつけるって。さっき、リョウさんも言ってました」
ハルはリョウを見る。リョウはうん、とうなずく。ハルもうん、とうなずき返す。
そしてハルはタクミに言う。
「ユキはじいちゃんが糖尿だから、糖分の取り過ぎには気を付けないといけないんだよ。この前の健康診断でも血糖値が高すぎるって出たし」
リョウも付け加える。
「昔、ご飯も食べずに仕事し続けて、エナジードリンクの飲み過ぎで血圧が急に上がって倒れたことがあるんだよ。それなのにやめられないって、ばかでしょう?」
「あ、リョウお前、この天才な俺様を今ばかとか言ったな?」
リョウはふん、とそっぽを向いて席を立つ。
「あっ、リョウさん、待って!」
休憩室を去りかけるリョウのあとを、タクミが慌てて追ってゆく。彼の髪はハルが撫でたためにぐしゃぐしゃだ。
去ってゆく二人を見てふん、と鼻を鳴らすとユキヤはカプチーノマシーンからアメリカーノを抽出中のハルを振り返って言った。
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