すりこみと彼の彼女

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第12話

(ええと、こういうの、なんて言ったっけ? )


リョウは思わず苦笑する。



孵化したヒナが、最初に目にした動くものを保護者だと思うってやつ。


(ああ、思い出した。「すりこみ」だよね?)




いくぶん緊張した固い表情でやってきた半年遅れの新入社員、古賀タクミ。


二年前にバイトで来ていたから、もっとリラックスしていてもいいはずなのに。



「タクミ君、久しぶりだね」


リョウがそう声をかけると、彼ははっと顔を上げ、リョウを見て表情がぱっと明るくなった。


「リョウさん! お久しぶりです!」


日本男子の平均身長(20代)にプラス3㎝くらいかな?


まぁ、高すぎず低すぎず、ヒールを履いたリョウよりもちょっと高いくらい。


オフィスカジュアルでいいので、白のカットソーに紺のパンツ、黒のランニングシューズ。まだ学生みたいに見える。


リョウの記憶通り、色素の薄いふわふわのくせ毛。かわいい顔立ちに人懐こい笑顔を浮かべて、黒のトートバッグをぶんぶん振り回しながらリョウのもとまで近づいてきた。




「会社の中の案内とか、いらないよね? もう全部わかるでしょ?」


「はい! 覚えていますよ! 僕の席はどこですか?」


「ええと……あれだよ」


ユマが銀行へ外出する前に指示しておいてくれた席。リョウとユマの席の斜め後ろのパーテーションのむこうに設置した二席のひとつを差す。


ユキヤとハルに「がんばれよ」と言われてかなりご満悦なタクミは、隣の席を使う先輩に挨拶を済ませて席に着く。


「じゃあ、今日やることは彼から聞いてね」


リョウはタクミの隣の二年下の後輩社員にタクミを託して、自分の仕事に戻った。



二年前、二十歳の時はもう少し幼い感じだった。


リョウが指導係となって面倒を見たので、リョウさん、リョウさんとどこに行くにもリョウについて回っていた。



そして二年後の今も、それは変わらないようだ。



重いファイルを資料室から運んでいればやって来て、僕が持ちますと言ってファイルを奪っていく。


昼休みになれば一緒にランチに行きたいと言ってついてくる(しかも先輩であるリョウが奢ってあげないといけないのに、自分がリョウにおごりたいと言って譲らなかった)。


パーテーションの後ろからひょこっと顔を出しては、リョウに手を振ってくる。


(きっと、子供の授業参観に来た母親って、こんな気分かな……)


二日酔いの翌朝にしては結構ハードな日になった。




そのうえ。




「は?」


リョウは間抜けな声を上げて首を八十度曲げた。


にこにことかわいい笑顔を彼女に向けながら、タクミは休憩室でもう一度同じことを同じ調子で言った。

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