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第8話
「えっ? 利用?」
「ほぼほぼ、トラブルは回避できるから」
「……?」
どういうことですか?
そう訊いてみたかったけど、その時は訊きそびれてしまった。
そして少し後になってわかったけれど……
大学の超有名人。
高校生の時にふたりで開発したアプリが国内外で称賛され、それをアメリカの企業に売却して法外な収益を上げたこと。
大学三年の時、ふたりで会社を設立したこと。
大学のホームページを彼らが作成して、有名な世界的コンペで最優秀賞を受賞したこと。
そうだ、とリョウは息をのんだ。
リョウがその大学に入学しようと決めたのは、ホームページを見てすごいと思ったからだった。
名前だけ聞けば、見当はついたかもしれない。でもまさか自分の進路のきっかけとなったその本人だとは夢にも思わなかった。
そんな人から二度も助けてもらっただけでなく、「困ったときには俺を利用してもいい」と言われるなんて。
しかもそれは冗談でも何でもなくて、本気の話だったのだ。
「俺のことはハルでいいよ」
そうは言われたが先輩、しかも雲上の人を呼び捨てにはできず、先輩と呼ぶことにした。
あとから東雲志哉も紹介されて、彼も先輩なのでそれぞれハル先輩、ユキ先輩と呼ぶことにした。
そうして始まった、「もちつ・もたれつ」の関係。
実は、ハルにとってもリョウの存在はありがたいものになった。
ハルは冗談抜きにモテる。
そこにいるだけで人目を引いてしまう。
天才なうえに外見が超絶ゴージャスだから。
彼の母親はもと大女優で(リョウも名前を聞けばわかる)、実業家に転身して美容業界で大成功を収めているような人だ。
本人曰く、モテるのは嬉しいが仕事や勉強で大変な時にモテても嬉しくもないし、むしろ迷惑極まりないということらしい。
ということで、リョウをそばにおいて意味深な態度を取り(カノジョだとか恋人だとか言わずに)、勝手に勘違いして去ってもらうという方法に出ていた。
初めは正直言ってほのかな期待を抱いてしまったリョウだが、ハルが自分のことを恋愛対象と見ていないことを悟って何も期待しないことにした。
期待せず「もちつもたれつ」の関係を徹底していれば、別れることはない。
ずっと近くで、特別な関係でいられるのだ。
やがてリョウは彼らの会社でバイトするようになった。
彼らのそばにいれば、リョウに対して下心を持って近づく人はいなくなった。
彼らが卒業してリョウが二年生、三年生になってもそれは変わらなかった。
そしてリョウはそのまま、卒業後に彼らの会社に就職した。
「別れの来ない」関係のまま、気が付けば出会って九年もの月日が経っていた。
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