蹴り飛ばしてでも逃げるんだ
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第6話
リョウがハルに出会ったのは、大学生になってすぐの四月だった。
右も左もわからない大学生活で、単位の取り方で四苦八苦していたころ。
構内のあちこちではサークルの新入生獲得の争奪戦が繰り広げられていた。
まったく知らない土地に来て知り合いもいなくて、ちょっと内気なために自分から積極的に声もかけられず、友達もいなかったころ。
ある日彼女は生協の前で、結構強引で軽薄な三人の男子学生に取り囲まれてしまった。
「ねぇ、キミ! すっごくかわいいね。ウチのサークルに入ってよ!」
別に興味を持ったそぶりは見せていないのに、真ん中のひとりがサークルの説明をし始めた。
夏は海、花火に夏祭り、冬はスキー・スノボ。そのほかにもスポーツ観戦とか飲み会とか年間を通していろんな行事をみんなで楽しむサークル。
「結構です」と断ったのに、「そんなこと言わずにさぁ、一回、一回だけ覗きに来てよ! キミみたいなかわいい子はVIP扱いで会費は無料にするからさ!」とかなんとか言って、なかなか解放してくれなかったのだ。
どちらかと言えば陰キャを自負していたリョウには、遊び系のサークルは本当に何の興味も湧かなかった。いやむしろ、できることなら一番避けたい系統だった。
「本当に結構ですから」と言うと、三人がかりでさらに強引に誘われた。その中のひとりに手首を掴まれて泣きそうになっていたところに、四年生のハルがたまたま通りかかって三人に声をかけたのだ。
「ちょっと、嫌がってるみたいだけど?」
三人はハルを見るや否や焦ってリョウから三歩後退した。
「あっ、こっ、
「いや、あの、俺たちはこの子にサークルに入ってほしくて……」
「絶対にかわいい子連れて来いって、先輩たちに言われててっ……」
ハルはため息をついて彼らに言った。
「だからって、夜の繁華街の客引きみたいなマネはするなよ? 新入生を無理矢理勧誘なんてするな」
三人の男子学生はあたふたと逃げて行った。
「ありがとうございました……」
蚊の鳴くような小さな声でお礼を述べてとっさに頭を下げると、ハルは笑って言った。
「気をつけなよ。嫌だったら蹴り飛ばしてでも逃げるんだ」
はっ、と顔を上げてリョウは驚いた。
先ほどの三人が二年生とすれば、この人は三年生か……四年生だ。
背が高くてすごく落ち着いていて、なんていうか……品があって、威風堂々とした態度。
しかも誰がどの角度から見ても文句のつけようもない程の……「美しい」と言えるくらいの美形だ。
その時はハルはそのまま去って行った。
『嫌だったら蹴り飛ばしてでも逃げるんだ』
その言葉は、強烈なビジュアルと共にリョウの脳裏に焼き付いた。
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