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第4話

もしも本当の気持ちがばれてしまったら……


もうお前とは二人きりで会うのは無理、と言われてしまったとしたら……


どうやって生きて行ったらいいの?




そう考えただけでも、涙が込み上げてくる。


それだけは絶対にだめ。




「終わりの来ない関係」




それが、ハルが望んでいるもの。


そして、リョウが安心できるもの。


お互いがお互いの人生にいないなんて、考えられないから。



特に、どちらかに何かがあった、今夜みたいな時。


ハルがリョウのそばに、リョウがハルのそばにいないなんて、考えられない。


九年前から、ずっと。





寝室のドアが開く。


ふわりと、自分と同じ香りが漂ってくる。


同じボディソープ、同じシャンプーの香り。



長い脚がリョウの頭上をまたいでベッドに飛び乗る。その勢いでリョウの頭がベッドから跳ねて浮き上がる。


大きな手がわしゃわしゃとリョウの頭を撫でる。


「よし、ちゃんと乾かしたな」


そして今度は大きな足がリョウの頭をベッドからマットの上に押し落とす。


「おやすみ」


ライトが消されてベッドサイドのランプの光が暗く落とされる。



「話を聞くって言ったじゃん……」


リョウのつぶやきにベッドに横たわったハルが眠そうに答える。


「んー。明日な。朝飯の時にでも。おやすみ」


マットの上でリョウは唇を尖らせた。ほどなくして静かな寝息がすーすーと聞こえてくる。


彼女は諦めて眠ることにする。


「おやすみ」と、ほとんど聞き取れない声で呟いてみる。



リョウは寝転がったまま両手をそっと天井に向かって伸ばしてみる。


右手を九十度弱、横に伸ばしたら……


二十センチくらい高いベッドの上に寝ているハルに触れることができるだろう。



彼が寝ぼけたころに手を伸ばして、くるんと体を反転させてベッドの中に潜り込んで、そっと耳元で何か囁いたら……


誰かと勘違いして、抱きしめてくれるかもしれない。




同じ部屋に寝ているのに、二人の位置は一点では交わることはない。


二十センチの高低差のある、平行線が二本。


手を伸ばして、体を反転させれば余裕で届く距離なのに、どうしてもそんなことをする勇気が出ない。


もしそんなことして拒絶されたら?


もう来るなと言われたら?


お前はただの後輩以上のなにものでもない、と言われたら?



そんなことになってはならない。


何かが変わるなんて、絶対にあってはならない。



もしも最悪の事態になったら、きっと死んだほうがましだと思うだろう。



ぽす、と両手を下ろす。


聞こえないように、無音のため息をつく。




苦しくてもかまわないから、明日も明後日もその次の日も、ずっとずっと、そばにいられますように。


そう願いながら、リョウは目を閉じた。

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