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第2話
「自業自得なのに、絡まないでくれるか? 俺は別に今誰かを引っかけようとしてるわけじゃない。彼女たちが俺を引っかけようとしてギラギラしてるだけだ」
そう言ってハルはリョウの頬に落ちてきた髪を彼女の耳に掛けた。
リョウはその手をぱしっと払いのけ、斜め横からハルを睨み上げた。
「よく言うよ! 先輩みたいな男って、サイアク!」
「俺みたいな男って?」
「自分がモテまくりなことに気づいていて、よりどりみどりの遊び人って自覚してるような男!」
ハルは両目をくるりと回す。
「今更か。そんな男だってお前はもうかなり前から知ってるだろ。それよりほら、あっちのダークスーツの男、お前のことちらちら見てる」
リョウは左手のこぶしでカウンターをぽんと叩いた。
「今はそんなことはどうでもいいの! 私は彼氏にプロポーズされて逃げてきたばかりなんだから!」
ハルは再び長い指先でUFOキャッチャーのようにグラスをつまみ上げ、琥珀色の液体をゆらゆらと回す。スモーキーフレーバーがふわりと立ち上がる。
「ふん。そうだったな。どうして毎回、逃げるんだ?
「逃げたくて逃げるわけじゃない。わかるよね? つきあうのはいいけど、結婚となると不安に押しつぶされそうになるんだよ」
ぐい、とグラスを呷ると、リョウは大きなため息をついた。
「も一杯、同じもので」
バーの中のバーテンダーにグラスを掲げるリョウの手からグラスをそっと取り上げて、ハルはバーテンダーに首を横に振って見せた。彼はこくりと無言でうなずくと、他の客のオーダーを取りに離れて行った。
さっき二人の背後を通って行った女が戻ってきて、すれ違いざまにさりげなく指先でハルの肩に軽く触れて行く。
ハルは艶冶な笑みを受けてちらりと女を見返す。
「ちょとおぉぉ! 私を慰めながら! いちいち流し目を受けないでってば。い・ま! あなたのツレは私ですからね!」
「はいはい、あたりまえだろう?」
ハルはリョウの背を優しく撫でる。リョウはその手をぺしっと払いのける。
「そう言うそばからまた! ひとが落ち込んでるのに、自分だけ楽しそうに!」
今度はカウンターの右側からの視線を受けているハルに、酔っぱらったリョウはいらついてくる。
「そうやって、真剣に聞いてくれない……」
「いいや、聞いてるよ」
棒読みの答えにますますリョウは苛立つ。
「聞いてくれてないよ! 私をタクシーに乗せたらここの誰かをお持ち帰りするんでしょ?」
「ひどい言いようだな。俺はそこまで人でなしじゃないし」
そう言いながら、別の女が妖艶な微笑を浮かべて通り過ぎてゆくのに視線を合わせているハルにしびれを切らし、リョウはスツールから立ち上がり、両手でハルに目隠しをした。
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