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第125話
「お姉様の商会の傭兵団は、武装を始めました。商会長は冷静ですが、戦の準備を命じました」
ラベンダー色の夕闇に空が染まるころ、エラードが戻ってきて教えてくれた。
「それはダメよ」
「お姉様はそれを望んでいませんとお伝えしましたけど、いつでも攻め入るようにはしておくと言っていました」
私はエラードの両手を取った。
「今夜の晩餐の席で、もう一度陛下とお話してみるから、明日の日が昇るころまでは絶対に待っていてと伝えてくれる?」
エラードは浅いため息をついてうなずいた。
「わかりました。私もお姉様が王宮を出るのを確かめられなければまた来ます」
「ありがとう、エラード。あなたにとっては何の関係もないのに……ごめんね」
彼はふ、と淡い笑みを天使のような美しい顔に浮かべた。
「何の関係もなくはないです。お姉様の幸せは、私の幸せなので」
でも、両陛下の説得に私は失敗した。
晩餐の席は国王と王妃、私の三人だけだった。
「王孫はまだあきらめてはおらぬ。そなたはまだ若い。魔術師と医師団とでそなた専任の一団を結成し、懐妊できるよう取り図ろう」
私は国王の言葉に太い縄でがっちりと縛り付けられたような苦しさを感じて、隣の王妃をちらりと見た。彼女は私を目が合ってはっと目を見開いたけれど、すぐに後ろめたそうに視線を外した。それでも、廃妃になることを認めてくれた時のような好意は見せてくれなかった。
「陛下。ヴァイスベルクの国王から、婚姻許可状をいただいております。わたくしはヴァイスベルクの大公殿下との婚姻の承認に、両陛下になっていただきたいのです」
「余は認められぬ。そなたはこの国の王妃となるのだ。わかってくれ、ヴィヴェカ。余も妃も、そなたのことを本当の娘のように愛しているのだ」
わからないわけはない。わかるからこそ、最悪の事態を回避したくて必死になっているのよ。
「行かないでおくれ。宝石でも領地でも別荘でも、なんでも望むものを与えよう。王という立場ではなく、父として望もう。どうか王子のそばにこれからもいておくれ」
それから三時間ほど話し合いをしたけれど、この七年間で見たこともないくらい、王はかたくなだった。王妃は悲しそうな表情のまま、王を止めようとはしなかった。
ああ。どうしたものか。
エラードが言うには、彼は空間移動ができるが、第三者を伴って王宮から移動することはできない。魔力が制限・監視されていて、彼がそれを潜り抜けることができても第三者はどうしても感知されてしまうらしい。
たとえ姿を消せるとしてもいないことがばれた時、今度は王がヴァイスベルクに抗議してこれまた戦争に発展するかもしれない。
どっちみち、望まない結果は避けられない。
「エラードに必ず説得するからって伝言しちゃったのにな……」
閉じ込められている部屋に戻り、私はソファで頭を抱えた。夜明け前までに説得しないといけないのに、また陛下に謁見を申し込んだけれど、侍従は陛下はもうお休みになられましたとしか言わない。
部屋の中をうろうろと回っていると、ノックの音がした。
はい、と答えるとドアが開き、レモンブロンドの髪の麗しい第一王子が息を弾ませながら姿を現した。
「殿下」
私は驚いて目を見開いた。
「ヴィ……マイツェン伯爵。遅くなってすまなかった。つい先ほど、あなたがここに閉じ込められていることを知ったので」
彼は後ろ手にドアを静かに閉め、苦笑を浮かべた。
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