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第123話
これは……軟禁だよね?
南宮の東翼の端っこ。
かつては先王の第一王女—―今の国王の姉君の住んでいたところ。第三庭園が広がる、美しい場所。彼女が遠くの国にお嫁に行ってしまってからは、主のいない静かな楽園。
「ゆるせ、ヴィヴェカ。やはりそなたを手放すことはできぬ」
国王はすまなそうに、けれど断固としてそう言った。
きっと、ロイス王子は私がすぐに帰ったと思っているだろうな。王と王妃の独断なんだろうと思うけど。
でも、私を再び王子妃にしても、王孫は望めないんじゃないの? トリーシャがダメだったなら、もっと若くて健康そうな新しい王子妃を見つけたほうが、シュタインベルク王家の繁栄のためになると思うんだけど。
夜までに戻らなければ、本当にレンが武装して傭兵たちを率いて王宮に来ちゃうから。とりあえずそれを防がなきゃいけないのに、連絡も取らせてくれないのね。
いったい、どうしたものか。
美しい庭園を窓辺で見下ろし、私は必死に考える。考えながら、左の手首につけた繊細な金の鎖のブレスレットについた、ガラスの小鳥のアミュレットを指先でまさぐって……はっ、と気づく。
これ!
このブレスレット!
エラードがくれたやつ!
『お姉様。くれぐれも、危険なことはおやめください。私が必要な時は、いつでもこれを砕いてください』
そう言ってたよね?
このガラスの小鳥を砕けば……あの子が来てくれるのよね?
この小鳥かわいいんだけど……やってみるしかないわ。
美しいものを壊すのは心が痛むけど、背に腹は代えられない。エラードならステルス魔術で誰にも気づかれずにここに来ることができるものね。何とかしてレンを止めないと、戦争になっちゃう。閉じ込められてはいるけど、王にも王妃にも危険な目には遭ってほしくないもの。
私はブレスレットからガラスの小鳥を引きちぎった。繊細な細工のそれは、あまり力を入れずともすぐに鎖から外れた。それを石の床に置き、真鍮の燭台を思い切りたたきつけた。
しゃらしゃらっと涼しげなかすかな音を立てて、ガラスの小鳥は粉々に砕けた。そしてそれはきらきらと光をまとい、まるで粉のようにふわりと舞い上がって霧散した。思わず手をかざして顔を背けると、聞きなれた声が聞こえた。
「お姉様?」
粉砕したガラスの粒子が光の中に溶け込んで幻のように消えてゆくほうを見ると、そこには天使のように麗しいエラードがいて、きょとんと首をかしげていた。
「エラード! 助けて!」
私は彼の白いアビの両腕をがしっとつかんでグラグラと揺らした。
「えっ? え? 何ですか? えっ? ここは……南宮? どういうことです?」
彼は私に揺らされながらきょろきょろと周囲を見回した。
「陛下に閉じ込められたの。廃妃を撤回するって」
「はい? 撤回? ……あのじじい」
ち、とエラードは舌打ちをした。
「ちょっと、殺してきます」
「あっ、だ、だめ! それはナシ!」
「えぇ? それじゃあ、どうすればいいのです?」
不満げに唇を尖らせてエラードは首をかしげた。
私は彼の両腕をつかんだまま横にちょこちょこと丸テーブルまで移動して椅子に座り、エラードのことも隣の椅子に座らせて彼と向かい合った。
「うちの商会長のところに伝言を届けてほしいの。ごめんね、こんなことで呼び出して」
「いいえ。お姉さまのお役に立てるなら、どんなことでもやりますよ」
エラードはにっこりと笑った。本当、天使みたいな神々しい笑顔で。
「ありがとう。では……」
誰も聞いていないと思うけど、私は頭を下げて声を潜めて話し始めた。
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