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第122話
初夏のさわやかな日差しがさんさんと降り注ぐ王子宮の庭園のガゼボ。
南のオストホフに比べれば、まだ春の名残がある。
私のお気に入りの場所の一つだったところ。
「温室はもう暑いだろうから」
ロイス第一王子は穏やかにほほ笑んだ。なんだろう? ブルーのアビ・ア・ラ・フランセーズを着た姿は、ついこの前会った時よりも落ち着いた感じの印象に思える。
使用人が入れてくれたお茶のカップを鼻先に近づけると、ふわりと柑橘系のさわやかな香気が鼻先に香る。
「今回のことは、すまなかったね」
テーブルの向こうで王子はそう言って、申し訳なさそうにまた淡く笑んだ。
「両陛下はあなたのことがお好きなのだ。本当の娘のように思ってのことだろうから」
私はこくりとうなずいてほほ笑んだ。彼は何か……どこかが違って見える。
なんだろう? 何か、違和感。
「元気そうでなによりだね。オストホフの大公との婚姻がヴァイスベルク国王から許可されたと聞いたよ。おめでとう」
「ありがとうございます。殿下は……この度の新王子妃のことは、大変驚かれたことでしょう」
トリーシャが妊娠していなかったなんて。彼は、半年くらい彼女に騙されていたことになる。
「ああ、ひどい話だね」
ロイス王子はふ、と苦笑した。
「そのせいであなたが去ってしまったのに、なにも意味がなくなってしまったな」
彼は私をじっと見つめた。
懐かしいものを見るような、とても優しいまなざし。
「いや、あなたにとっては大きな意味があるようだね」
「はい……?」
「七年も一緒にいたのに……あなたのそのような光り輝く姿を、知らなかったよ」
まぶしいものでも見るように、彼は目を細める。
「長年ともにいると、いつの間にかなんでも当然のように思えてしまうようだね。あなたが隣にいてくれることに、何の疑問も持たなかった。でもこんな幸せそうに輝く姿は見られなかったな」
「殿下……ここにいてわたくしは、幸せでした。殿下にはとても優しくしていただきました」
「そう言ってもらえると、救われる気分だよ。私ももう、前に進もうと思う。だから両陛下のお考えは気にしないでほしい。私がお二人を説得しておくから」
そうか、彼は精神的に少し大人になったみたい。だからちょっと雰囲気が違うのね。
私を見送るとき、彼は穏やかな笑みを向けてくれた。プリンス・チャーミングが素敵な相手を見つけて、今度こそ末永く幸せに暮らしていけますようにと、私は心から祈った。
感慨深い思いを抱きながら馬車止めのほうへ向かっていると、突然、近衛隊の隊長に呼び止められた。
「マイツェン卿、国王陛下のご命令により、お部屋にご案内いたします」
「はい? もうお話は済んだのですが……」
「まだお返しするなとのことです。こちらへお願いいたします」
ぐるり、五人の近衛隊の騎士たちに囲まれる。これは……なんか、まずいかも。
「あの、夜までに戻らないと……」
まずい。レンが武装して迎えに来ちゃう。
でも近衛隊長は大きな体を壁のように立ちはだからせ、私を見下ろして静かに威圧する。
「ご同行願います」
ああ。国王陛下。どうして心変わりなさったの……?
私はなすすべなく、騎士たちに囲まれながら近衛隊長の後について歩き始めた。
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