2
第121話
「お久しぶりでございます」
国王夫妻の応接室。久しぶりね。前回ここに来たのは、私を廃妃にしてくださいとお願いを申し上げた時だった。
今回もこの場には三人だけ。
「なんとまぁ。ヴィ……いや、マイツェン伯爵よ、見違えたぞ、そなた……」
王が私を見て目を丸くした。隣の王妃もうなずいている。
「本当に。生き生きとして……光り輝いている。そなた、毎日を楽しんでいるようだな」
「はい。畑を作って商売をしたり、福祉事業を考えたりしております。剣術を習い、料理を習い、旅行にも参りました」
私は自然な笑顔を浮かべて言った。
国王はおほんと咳払いをして少しためらいながら言う。
「うむ。それはよいな。ところでそなたを呼びよせたのは、ひとつ提案をしたかったからだ」
きた。国王夫妻はちらりと顔を見合わせる。私はにっこりと微笑んだ。
「はい、伺いたく存じます」
「そなたは、アイレンベルク公爵が政変を企み失敗し、斬首された件は聞き及んであろう?」
「はい。実家は情報を売買しておりますので、存じております」
「ああ、そうであったな。アルトマン商会は国内どころか大陸一の情報網を持っておるな。それで、新しい王子妃の懐妊が偽装であったことももちろん、知っているな?」
「残念なことでした。両陛下も王子殿下もさぞ失望なさったことでしょう」
「それなのです。マイツェン伯爵……いえ、ヴィヴェカ。王子妃として、戻って来てはくれないだろうか」
それまで黙っていた王妃が懇願するように言う。私はこの方たちがとても好き。でも、もう戻りたくは……ない。
「わたくしは一度廃妃になった身です。戻ることはできません」
両陛下のお顔に失望と悲しみが広がる。私も悲しいけれど、こればかりはご希望に添えない。
「それに……わたくしはもう、これから共に生きていきたいひとを……見つけたのです」
王の眉間に深い縦ジワが寄る。彼は頭を抱えてうつむいた。
「ヴァイスベルクの、よりにもよって大公が相手とはな。国内の貴族ならば、打つ手はあったのだが。婚姻承認申請所は受け取っているが……考え直してはくれないだろうか? 大公妃よりは王子妃のほうがよいではないか? いずれは王妃となるのだぞ?」
「陛下。わたくしは……大公妃になりたいわけでも、王子妃になりたいわけでもないのです。ただそのひととずっと一緒にいたいだけなのです」
薄い苦笑を浮かべる私を見て、王妃がため息をおつきになった。
「陛下。すでにヴィヴェカの気持ちは、変わってしまったようです」
そこにノックの音がして、国王の侍従が慌てた様子で入ってくる。
「陛下、恐れ入ります。只今、第一王子殿下がお越しになりました」
「なに? ロイスが?」
「王子は、外出していたのではなかったのか?」
両陛下は少し驚いておられる。ロイス王子はどこかへお出かけだったはずなのに、突然こちらへ渡ってきたということらしいけど……
「はい。その……非常に、ご立腹のご様子であられます」
「えっ?」
あのロイス王子が?
ご立腹?
あの温厚な王子が? 七年間で一度も、「ご立腹」した様子なんて見たことはなかったけど……
一体、何に対してどうしてご立腹なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます