5
第116話
ヴァイスベルクには二人の王子と秘密の庶子が一人いた。
国内でも有力なある公爵家の令嬢だった王妃の産んだ第一王子、外国の王女でいうなれば人質として嫁いできた側室の産んだ第二王子、そして出生を隠された非公式な第三王子。
第二王子の母は、王子を生んですぐに毒殺された。王子自身も、何度も王妃に暗殺されそうになった。そして第三王子は出産前に死んだことにされていた。
隣国の辺境伯令嬢は、ヴァイスベルクの親戚の邸に滞在している時にたまたまある孤児院で、オストホフ大公と名乗る青年と恋に落ちた。彼の正体がヴァイスベルク国王だと知った時には、彼女はすでにレンを身ごもっていた。
国王は最愛の恋人を徹底的に隠したが、やがてその存在は王妃の知るところとなる。この時に国王の依頼で彼女の護衛を務めたのがラルドだった。彼女は傭兵団によって王妃の手の届かないところに逃れて無事、第三王子を出産した。
王妃の恐ろしさを思い知った彼女は、王には死産だったと告げた。ひとりで子供を育てるという彼女を放っておけず、任務を終えた後もラルドは彼女とその息子の面倒を時々ひそかに見続けた。そしていつしか信頼と愛情の芽生えた二人は夫婦となり、レンは傭兵子爵の息子となった。
「俺は十二の時に自分の出自を両親から知らされた。本当の父親が王だって、ふざけるなよって思ったな。親父にくっついて戦場に行くようになって、万が一ヴァイスベルクの高位貴族に遇ったら目を見せるなって言われたんだ」
紺青の瞳が王家の血筋と知られれば、政略に利用されるかもしれないからよね。
「それである任務で本当に偶然、ハインツに会ったんだ」
ハインツとはハインリヒ国王の愛称なんですって。彼は幼い頃から騎士見習いになり、王妃によって危険な戦地にあちこち送り込まれていたらしい。
お互いの瞳を見て、同じ血筋たと確信した。それから二人は親交を深めていった。
「七年前に、突然先王が崩御した。王太子は第一王子だったが、ハインツは彼から王位を奪うことにしたんだ。王妃の実家による不正がはびこって経済が混乱し、国民たちは重税に苦しんでいたから。だから俺も手を貸すことに決めたんだ」
「先王の死は、王妃による毒殺だったのだ。父王は亡くなる前に、遺書を書き換え余を王太子にするとおっしゃっていたからな」
王妃は政略結婚だったから、自分の子を王位に就かせるという野望のために生きていたんですって。
「だが王妃の実家は国内で最も権勢の強い一族。完全に倒すまでに七年近くかかってしまった。その間、そなたたちの再会の機会を奪うことになってしまった」
第一王子は戦死、王妃と王妃の実家の公爵家は一族全員が死刑になったらしい。
そしてハインリヒは新王の座に就き、彼の弟の第三王子は王弟として正式に王族となり、オストホフ大公となった。それが……この国での、レンの身分。
はぁ。
王城に行く前にレンが言ったことが、何度も思い浮かぶ。
『言わなかったのは、その先にある真実がもっと複雑だからだよ。俺はもう、腹をくくった。あんたはそれを知る気があるか?』
「その先にある真実」。
スケールが、大きすぎるでしょ。
「ねぇ」
私はテーブルのむこうで途方に暮れるレンに話しかけた。
「あなたが真実を言わなかったわけは、納得した。国のトップシークレットだものね。でも、どうしてわざわざ面倒なことをしてるの? 身分を隠して隣国で商会長やら傭兵団長やらする意味って、何なの?」
「それは」
レンは困ったようにテーブルの上に視線を泳がせて、そして苦笑しながら肩をすくめて言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます