2
第105話
伯爵たちが森の大火事に混乱して騒ぎ始めると、彼は魔法を解いて自分の姿になりって恐れおののく伯爵を捕らえた。
「あんな奴を一緒に連れて空間移動するのは疲れるだけなので、辺境伯のところに馬で運びました。手柄はあげるから、誘拐された
「それは……ベーレンドルク辺境伯は、驚かれたでしょうね」
私は苦笑を浮かべた。
「あんまり表情が変わらないかたなので、驚いたかはわかりませんけど。ちょうど辺境伯領では、ちょっとしたキツネ狩りをされた直後のようでした」
「ああ、武器の密輸団を捕まえたのね」
「そのようです。あ、ヴァイスベルク側の隊に、アルトマン商会の傭兵団がいましたね」
「そうよ。ヴァイスベルクの国王の依頼を受けたの」
「彼らは狩りのあと、ヴァイスベルクへすぐに発ちました。辺境伯もあと一日くらいで王都に到着するでしょう」
三日前に密輸団を退治したなら、事後処理をしてもそれくらいになるわね。
「あなたの狙いはこれだったのね。辺境伯が王都に着いたら、すぐに公爵を拘束しないとね」
「はい。今のところ、王都にはまだ何の情報も入っていないでしょうから、辺境伯が入京する時に捕まえられるよう、公爵とリシェル妃の動きを見張っておくつもりです」
「あなたもこれで立派な功臣ね。ご両親がお喜びになるでしょう」
「思いがけず、そうなっちゃう感じですね」
あはは、とエラードは笑った。
「それはそうと」
エラードはくいっと右の眉をつり上げた。
「お姉様の商会の傭兵団」
「うん?」
「辺境伯に公爵の息子を引き渡してちょっと退屈だったので、彼らにくっついてヴァイスベルクにこっそり行ってみたんですけど」
エラードの得意な魔術のひとつは、ステルス魔術なのだ。たぶん、ブラッツ卿のように強力な魔術師でも、エラードが本気を出せばその気配と魔力を感じ取るのは難しい。
「銀狼団の団長、商会長なんですよね? 彼、ちょっと困ったことになっているみたいでした」
「え?」
レンが?
「どういうことなの?」
「ヴァイスベルクの国王にめちゃ褒められてて……」
「それがどうして困るの?」
お得意様だって言ってたし。褒められたなら困ることはないでしょう?
私がいぶかしげに首をかしげると、エラードはため息をついた。
「君主って。たまに望んでいないモノをやたらとくれたがるでしょう? ヴァイスベルクの宰相のご令嬢との婚姻を勧められていました」
「婚姻?」
「シュタインベルクでは彼は子爵位でしょう? どうやらむこうの国王は、彼を重用して本当の臣下にしたいのでしょうか」
「……彼は、婚約者がいるらしいって聞いたことがあるんだけど」
「そんなこと。王様ならどうとでもするでしょう」
まさか。
私がヴァイスベルクのオストホフに移住したいと言ったから?
かの国の国王は何か過大に期待して、うちの商会を傭兵団ごと取り組むためにレンに高い爵位を与えようとしているのかしら?
「……」
「そのせいで彼らは王城に足止めされて、戻ってこられないみたいでした」
エラードは途中で馬車を降り、自分の邸に戻らなければならないと言って幻のように姿を消した。魔術で自由に移動できるって便利ね。入れ替わりに、ナデァが馬車に乗り込んでくる。
「ナデァ。今、エラードから聞いたんだけど……」
私はヴァイスベルクでレンたちが足止めされていることについて彼女に話した。
「それは……まずいことになりましたね。兄は、断り続けているはずです」
「それでも……一国の王の申し出だから……」
どちらともなく黙り込んでしまう。
雨が降り出しそうな曇天のもと、私たちは青い森の離宮に向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます