転生のアルカナ

第104話

謁見の翌日には、レンはヴァイスベルク国王に呼び出しを受けて、傭兵団を一隊ほど連れて西部へ向かった。


 第一王子の暗殺未遂で捕らえた指示役を拷問にかけて得た情報により、密輸団が動くことが分かったから。


「辺境伯からの情報では、ガイスラー商会が密輸を手掛けているようです」


 アダリーによると、近頃ガイスラー商会は王都での勢力を広げているらしい。不純物の混じった粗悪な塩や盗品の宝飾品を闇ルートで売りさばいて生み出した資金を、お金に困っている貴族に高い利子をつけて貸し付ける。彼らの弱みを握り、自分たちの都合で操る。ガイスラー商会はアイレンベルク公爵の闇商会なんですって。


 レンはヴァイスベルク側の小さな村から、辺境伯は自分の領地から密輸団を挟み撃ちにするらしい。


辺境伯あいつと協力し合わなくてもあんなやつら駆除できる」なんてレンは不機嫌そうだったけど、密輸団は武装して一小隊ほどの人数らしいので、念のために協力し合うようにとヴァイスベルク国王からの命を受けたらしい。


 私は四日ほど王都に残り、ヨーンやシルケ夫人とハーブ事業の今後の方向性や商品開発について話し合った。ヨーンはガイスラー商会に薬草を卸すお得意先を横取りされたので、商売で仕返しする気満々で生き生きとして楽しそうに見える。シルケ夫人も新しい生活を気に入っているみたい。


 

 王都を発つ朝、見送りに来てくれたアダリーが何だか浮かない表情をしていた。


「どうしたの? なにかあった?」


 私の問いに彼女は淡い苦笑を浮かべて首を横に振った。


「先ほど、ブラッツから知らせが届きました。三日ほど前に、半日もかからずに密輸団を壊滅させたようです」


「そう。けが人は?」


「うちの銀狼団も辺境伯の隊も、軽傷者が数名いるだけとのことです。それと……あの……レディ」


「はい?」


 何かを言いかけておいて、アダリーは言いよどんだ。いつも気まずいことまではっきりと言う彼女らしくない。


「いえ、あの……」


 彼女が再び何かを言いかけたとき、使用人が急いだ様子でやってくる。


「ご出発前に取り急ぎご連絡がございます。オーナーにお客様がお見えです」


「ええ? 今?」


 もう本当に出発するところなのに。



「お姉様っ!」


 ひらひら。使用人のあとからのんびりと歩いてくるパステルグリーンのアビを着たエラードが、笑顔で手を振る。


「ああ、おかえりなさい。すごく……楽しんだみたいね?」


 彼の満足げな表情を見て、私は苦笑を浮かべた。



 エラードを乗せて、隊商に見せかけた私たちの馬車は出発した。アダリーが何か言いかけたのは気になるけど、彼女も強引に言わなかったからそんなに重要なことでもないのかな。


 彼は私に扮してマイツェン邸から誘拐されてからのことを話してくれた。


 今まで、公爵の令息であるリカード伯爵の中西部の領地の森の中の別荘に、軟禁されていたんですって。


「大丈夫? ひどいことされなかった?」


「ん~、出された食事がマズすぎて、そういう拷問かと思いました!」


 彼はふふふと笑った。


 もちろん、エラードにとっては監禁なんて何の意味もないよね。彼は監視の目をかいくぐり、建物の中の構造や伯爵一味の行動を観察していたらしい。


 ちょうど私たちが王都に戻るころ、彼はリカード伯爵の領地に雷をたくさん落として火事で森一帯を焼失させたんですって。



「きっかり、辺境伯の領地の森の手前までをきれいに燃やしました」


 彼は満面の笑顔を美しい顔に浮かべてかわいらしく言った。言ってることは全くかわいくないけど。

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