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第77話
「ああ、そういう方向で昼間会った奴とは合意した」
「えっ?」
「正直、シュタインベルクでは第一王子が立太子して、ゆくゆくは新王の座についてくれたほうが都合がいいんだ」
レンは私が知らなかった驚くべき事実をいくつか話してくれた。
一年以上前から、彼はここヴァイスベルクの国王からある依頼を受けて動いていると言う。内戦が終わる少し前から、ヴァイスベルクの武器がシュタインベルクに大量に密輸されているらしい。現国王が内線を終結させて王座に就くと、悪徳武器商人たちは自国の武器の需要が減ったことで、隣国シュタインベルクにお得意様を見出した。
「最大の取引相手がアイレンベルク公爵家だ」
「そんなに武器を密輸してまで買い集めているということは、公爵は本気で……」
武力行使で王と第一王子ロイスを討ち、王の側妃である妹リシェル妃が産んだ第二王子ルキを王位に就け、自分は摂政にでもなるつもりなのだろう。
「ヴァイスベルク国としても自国から密輸された武器が隣国のクーデターに使われることは望ましくない。公爵が摂政になればシュタインベルクは不正が横行して混乱が起きるだろうしな。近隣諸国から非難を受けるとばっちりも考えられる。ということで……公爵の野望を妨害することになったんだ」
「ん? つまり、ヴァイスベルク国王の依頼で、うちの商会が情報だけでなく、傭兵団も動かすの?」
「別に特別なことじゃない。俺たちはこの国の内戦にも参戦してたし」
「それじゃぁ、昼間は国王に謁見していたの?」
「ああ。ついでに言えば死神辺境伯も一緒だった」
「えっ?」
ベーレンドルク辺境伯も? やっぱり、私がお祭りの街中で見かけたのは辺境伯だったのね。
「武器の密輸ルートがあいつの領地を通ってる。今まで奴らが普通の商人面で通り抜けてたのを見逃してたみたいで、激怒してたな」
「ヴァイスベルクの悪徳商人たち、もう終りね……」
よかった(?)。辺境伯も密輸商人のことで忙しくて、私に花を贈っているどころではなさそうね。
「あんたがここにいることは言ってない。言ったら押しかけてきそうだから」
私はうすく笑んで首を傾けた。
「押しかけてくると言えば、公子はどこにいる?」
ちょっと、訊くの遅いと思うんだけど。
「王都に戻ったわ。なにか、やらなくてはいけないことがあるって言って……」
「ふうん。あんたがあっちに帰るまで居座ると思ったら、意外だったな」
まったく、大公家の
そう……
エラード、大丈夫かな……
晩餐のあと、私たちは睡蓮の池のガゼボまで、祭りの花火を見に行った。
この前は柱と柱の間にそれぞれ背もたれて、向かい合って座っていた。今はレンの脚の間に座り彼にもたれている。オストホフ領に来てからは、王都にいたときよりも一緒にいる時間が増えて、そして関係も親密になった。
初対面の印象はお互いによかったとは言えないと思うけど……自分より高い体温や強い鼓動を背に感じて、切なくて涙が出そうなくらい幸せだと実感している。こんな気持ちはヴィヴェカがロイスに対しても、にいながつき合っていた誰かに対しても抱いたことのないものだ。
今まで生きてきた中で起こったもろもろのついてないことや嫌なことは、こうして報われるための必然だったのかもね。
私は花火を眺めながら言った。
「ねぇ。ここに来ないかって誘ったのは、本当は公爵が王都で公爵が私を誘拐する計画があるって、知ってたからでしょう?」
三秒の沈黙ののちに、レンはふ、と笑んだ。
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