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第59話
第一印象は……
酒場の二階から、突然降ってきた男。サッカーでもしてるみたいに大男を蹴り上げた。
傲岸不遜な笑みは、初めからどこか私をばかにしているみたいだった。
でもなんていうか、嫌味な感じも出戻りを軽蔑している感じも全くなくて、面倒そうなのに迷惑そうではないの。なんだかんだと意地悪で厳しいことを必ず言ってくるくせに、結局は私のしたかったことをかなえてくれている。
態度も言葉も乱暴なのに、しぐさのひとつひとつはすごく洗練されていて、強い自信に満ちている。「銀狼」の二つ名で傭兵王とかソードマスターとか言われているけれど、粗野な感じは無くて逆にどこかなんとなく気品のようなものも感じる。なにより誰もが認める超絶イケメンで、端正な顔立ちなのに紺青の瞳には誰の手にも負えないような野生の美しさが宿っている。
何て言うかな。深い森の中でうっかり迷って、その森の王者である銀色の狼にばったり出くわしてしまった、みたいな。怖いのに、美しすぎて目が離せない、命の危機を本能的に感じていながら、もって近くで見てみたいという好奇心に抗えずにいるような。
あの日、レンに急接近した日から正直、気が付くと彼のことを考えてしまっている。
我に返るたびに、ふるふると頭を振って自分に言い聞かす。
あれは、好きになったらダメなタイプ。危険すぎる。きっとああしろこうしろと威圧的に命令するに違いないわ。「にいな」だった時の私には、縁のなかったタイプ。前世の私は駄メン拾いで、自主性に富んだ野性味のあるイケメンじゃなくて、自分がなくて向上心もない怠惰な感じのダメな優男風イケメンばかりだったから。いや、そっちも好きになったらダメなタイプなんだけど、まだ私の手には負えてた感じ。
それに……
ナデァが、言ってたじゃない。レンには婚約者がいるって。商会の主で傭兵団の団長でもあるけど、ラルドのあとを継いで子爵だしね。彼も貴族ということは、婚約者がいたとしてもまったく不思議はないし。そのうえ、アダリーは絶対に彼に惚れてると思う。彼女のレンを見る視線は、時々部下のそれじゃないときがあるもの。
駄メン拾いの私でも譲れないポリシーがあったわ。ひとの
でも……
不思議なことに……抱き上げられた時、なんだかそれが初めてじゃないような気がした。
どうしてだろう? つい最近、初めて会ったのに。あんな顔なら、以前に会ったらヴィヴェカも記憶に残ると思うんだけど、全く記憶にないのはやはり会ったことはないのかな。
うーん……
そうこうしてる間に時は過ぎて、いよいよ明日は国境を越えて隣国へ旅行する。
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